クロスターノイブルク修道院はウィーン北の郊外にあり、900年もの歴史を持つロマネスク様式の建物である。その地下でボイラーの低いうなり声が聞こえる。この音の正体は木材チップなどの木質バイオマスを利用する熱供給ボイラーで、修道院だけでなく、近くの病院やホテル、役場などに暖房用の蒸気を供給している。8000ヘクタールもの修道院が所有する森林の管理責任者のフベルトス・キメル氏は「燃料の木材を自前の森林から調達できるのが強みです」と語る。修道院の森林はドナウ川の右岸な どに広がり、樹齢40年以上のクルミやポプラなどが自生していて、古くから家具や建材用の丸太を切り出すなど林業を営んでおり、さらに熱供給事業を始めたことで、細枝や樹皮に燃料という付加価値がついた。「根元に近い太い幹から先端の細い枝まで残らず利益を生む。修道院の林業部門の収益力が格段に上がった」とキメル氏は話す。2003年に整備したボイラーは、4000キロワットの出力で、初期投資はそろそろ回収できるそうである。オーストリア国内全体で1000を超える木質バイオマスを利用して熱供給を行う設備があり、多くは森林所有者らが組合を作って運営している。設備導入が増えたのは、グリーン電力法(02年施行)で、バイオマスの電力買取価格が保証されたことも関わっている。「木質バイオマスによる熱供給設備の普及は、森林所有者の所得工場につながっており、地域社会の活性化に大いに役立っている」とオーストリア農業経営者協会のエネルギー政策顧問アレクサンダー・バフラー氏は話す。日本でも森林資源がエネルギーとして見直されている。木質バイオマスの発電所は、現在、国内で大小100あるが、燃料として使用されているのは、製材で出た残材や建設廃材が中心で、年間2000万立方メートルもでる間伐材は、収集・運搬コストがかかることから、ほとんど利用されず、専用チップを購入している。北海道下川町は町の9割を山林が占めており、04年以降、町が公共施設への木質バイオマスボイラーの導入を進めており、09年度には、間伐材を集めて燃料チップを作る施設を整備した。町は、「環境未来都市」「地域活性化総合特区」に政府から指定された。「日本の森林は先進国でも有数の資源量。しかも、他に産業がないようなところに森はある。そこから材が出てきて、加工、流通、利用などに広がっていくとなると、地域にとって大変な恩恵となる」と内閣官房国家戦略室で林業政策を担当した富士通総研主任研究員の梶山恵司さんは語る。林業再生は、山村再生の可能性も秘めている。