昨年5月に、群馬県桐生市の人工林で親子とみられる2頭のクマがクマ剥ぎをする様子を、群馬県林業試験場の片平篤行独立研究員は30~40メートル離れた場所から約15分間にわたって撮影した。この間2本ずつ計4本の樹皮を前脚と口でほぼ全周にわたって剥ぎ、白くむき出しになった材の表面を前歯で削り、舌でなめ取るように食べてい た。人工林のほとんどは樹齢25年のスギ林である。撮影の2日後、スギ365本、ヒノキ65本の計430本で剥ぎ跡を確認した。動画を解析すると最長10分ほど1本の木を剥ぐのにかかり、2頭で430本剥ぐのに約14時間かかり、1、2日程度で被害を与えたと推定される。クマ剥ぎによって全周むかれた木はやがて枯れ、部分的な被害でも木材として価値が下がる。被害を受けやすいのは細い木より伐採時期が近付いた太い木である。「ある日突然、伐採時期が近い良い木ばかりがやられる。マグロに例えたら大トロばっかり食べられるようなものだ」と市内で林業を営む安蔵新次郎さんは語る。木の実などがない春から夏にかけてクマ剥ぎが起こり、この時期は、野生のイチゴなどと同等の甘さといわれるほどの樹液が木の中を流れる。「餌不足の時期に、栄養のとれる餌として利用しているのだろう」と宇都宮大の小金沢正昭教授は話す。2月に片平さんは群馬県の成果発表会でこの動画を公開し、「現場で拾った糞は木片で真っ白。こればかりを食べていた様子がうかがえる」と語る。筑波大の藤岡正博准教授は「人工林の成熟とクマの増加で、被害はさらに増えるかもしれない。今はまだ、木に防除資材を巻いて対応するのが現実的だろう」と考えている。