現在建設中の興福寺中金堂の部材の「木探し」のため、1990年にカナダへ再び訪れた。カナダのイエローシーダー(カナダ産のヒノキ)やアフリカの木アパ(カメルーン産ケヤキ)を中金堂に使っている。長野県や山梨県などの山を周り大木を探したが当時は見つけることができなかった。日本の山にも直径1メートルの木があるといわれるが、直径80センチの柱を作るために、直径1.5メートルの原木を製材する必要がある。さらに、根元が太いだけでなく10メートル以上もまっすぐで同じ太さでなくてはいけないが、なかなかそういった木がない。部材として使われる木は原木の2割くらいで、つまり、部材の5倍の原木が必要であるという。また、どんな木でもいいわけでなく、硬すぎず、しなやかで長持ちするヒノキが一番である。1000年以上も当時の姿を残している法隆寺や薬師寺には人の努力と共にいいヒノキが使われているのである。最近ヒノキの大木がなくなったわけではなく、建物の部材は建てられた時代ごとに変わっている。ヒノキは奈良時代、スギは平安時代、ケヤキは鎌倉時代、そしてマツが室町時代以降使われている。中金堂の部材はイエローシーダーやアパは日本のヒノキに材質が近く、年輪の間隔は1ミリほどの細さで、1メートルの太さに育つのに1000年もかかるという。今回は部材を見つけることが出来たが、最近は環境保護運動などのため、木材輸出を禁止する国が増えており、木の調達が大変である。何百年もこの先、お寺を残すため木の問題を考えなければいけない。国も植林に乗り出している。将来、日本の山々が、太くて立派な木におおわれるようになってほしものである。