岩自分の作品について「絵ではなくて、写真です。花、葉、実、枝など樹木の様々な部位の四季折々の姿を撮影してコラージュし、一つの樹木の1年の変化をそれぞれ1枚の写真で表現したのがこれらの写真なのです」と説明をする。北海道の東川町に住む私(奥田實)は、約10年前からエゾマツやチシマザクラなど150種類の樹木の写真を 撮ってき、1枚の作品を制作するのにかなりの時間をかける。子供の頃に自然観が培われ、写真家を目指してからも自然の営みを被写体にすることが多く、北海道に自生している樹木に魅力を感じるようになった。しかし、北海道でもなかなか原生林に出会えず、だからこそ「見たい」との思いが強くなっているのである。そして樹木についての知識がないことに気づき、観察しながら撮影することになった。秋のある日、大雪山連峰に赤く色づき始めたクロマメノキやハイマツ、ヤナギがあり、その中にミヤマナエギがあった。背丈50~60センチ、枝先は黄色みを帯び、数枚の葉が明日にも散ってしまいそうであった。さまざまな葉の落ち方があることにも気付いた。エゾイタヤはグライダーと落下傘を合わせたようにジグザグに落ち、ホオノキの葉は垂直にすとーんと落ち、ハルニレの葉は天に舞い上がってどこかへいってしまう。ある日、パソコン画面で樹木の細部を見ていた時のインスピレーションからコラージュが生まれ、デジタルカメラで写真を撮り、冬芽、新葉、花、果実、紅葉、種子など様々な部位の1年間を画面上で並べた。ブナの芽吹きの切り抜き作業中など、しばしば生命力の発見をした。写真集「生命樹」(新樹社)にこれらの作品がまとめられており、昨年、「東川賞特別作家賞」を受賞した。今後も自然の営みの中で命の輝きを発見できるような仕事を続けていきたい。