奈良国立博物館で10月29日~11月14日に行われる第63回正倉院展では香木や香炉など、香りに関する宝物が多く出展されるそうである。正倉院に納められた経緯が不明な「黄熟香(蘭奢待)」はラオス中部からベトナムにかけての山岳地帯の沈香と呼ばれる香木の一種である。この成分を解析したところ、香りを放つ強さが現在の沈香と同程度である可能性が高いと判明した。「1200年以上もの間、樹脂が成分をしっかり包んでいたようである。通常の沈香のどっしりとした重い香りではなく、涼やかな香りを放つ名品だ」と調査をした薬学者の米田該典さんは話す。織田信長や足利義政や義満義教が芳香に魅せられ切り取ったといわれている。「興味本位だった義政に対し、信長は対抗心から切り取り、子飼いの家臣へ配った」と小和田哲男・静岡大名誉教授(日本史)は「宝物の政治利用」を見てとる。また、僧侶が法会などの際に「赤銅柄香炉」と「赤銅合子」を手に持ち香をたいたようである。「法要で香をたくのは仏様がいる堂内を清める大事な行為。当時の香りに思いをはせながら見てほしい」と奈良県・薬師寺の山田法胤管主はいう。他にも仏教と関わりのある宝物が並び、宮内庁正倉院事務所が、昨年完成させた復元模造品と合わせて出展される。