外国産の木材が、古社寺の伝統建築に多く使われている。日本国土のおよそ7割が森に覆われていて、森林資源が年々増えているというのになぜなのか。乏しい森林育成のビジョンが裏にあるようである。 ●先細る大径木 奈良市にある興福寺の中金堂の再建が約300年ぶりに2010年から行われている。建物は、東西37m、南北23m、高さ21mで、巨大な柱36本は、直径77cm長さ9.9mである。柱にはアフリカ・カメルーンのアパ(アフリカケヤキ)使用しており、ヒノキに比べると赤く、木目が斑に見える。しかし、瀧川昭雄・瀧川寺社建築会長は「価格は国産材の数分の一で、強度も十分」と話す。これらの柱の原木は直径が2m近く、25年も前から少しずつ購入した。梁などはカナダ産のヒノキを集めた。興福寺の4km西の薬師寺は約450年ぶりの1976年に再建をした金堂には台湾ヒノキの巨木を使用している。古社寺の建築に必要な大径木は、直径数m、樹齢200~400年だが、瀧川会長は「そんな木は国内にない」という。平城京跡の昨年完成した大極殿で樹齢400年前後の国産材を求めていたが、300年弱のものを入手するのがやっとだった。日本の森林資源は66年に18億8700万立方メートルだったが、07年に44億3200万立方メートルに増加している。しかし、木材生産額は1980年から5分の1に減っている。また、大径木の予備軍である高齢の木は極端に少ない。年々厳しくなっている林業は、いつ収入になるかわからない大径木を育てる余裕がなく、「大半が木を何気なく植え、戦後に切り出された。国が跡地に木を植えようと指導したが将来の見通しがなかった」と日本林業経営者協会に速水会長は話す。見通し甘さは、中世以降からの課題だ。東大寺の大仏殿では、関西で大木を調達できず、一回目は山口県からヒノキを、2回目は宮崎県から松を手に入れた。 ●自助努力を模索 地道に木を育てるしか問題を解決する方法はない。「古事の森」事業を始めた林野庁は、国有林にヒノキを植え、直径1m以上、樹齢200~400年の巨木を育てる。「ふるさと文化財の森システム」推進事業として文化庁は、大径木や屋根用の檜皮がとれる公・民有林を全国38カ所で設定している。民間では「文化遺産を未来につなぐ森づくりの為の有識者会議」(事務局・東京)が樹齢150年以上を目指す森林の所有者が登録する「文化材創造プロジェクト」を進め る。だが、法隆寺の大野玄妙管長は「400年も同じ社会・政治体制が続いたことがあっただろうか。将来、自社の木材が顧みられなくなる恐れもある」と指摘する。一方、寺社独自の方法をとる動きもある。伊勢神宮は、4千ヘクタールのヒノキ林をおよそ90年前から確保。清水寺も府内100ヘクタールの森で数千本のケヤキを2000年から育てている。しかし、「虫害や鹿の食害、雪の重みによる枝折れなどがある」(大西英玄録事)と前途多難である。