5月下旬から一本松の葉は赤茶色に変わり始めた。東京の日本緑化センターの滝邦夫さんは「周囲から海水が入り込み、根元は水浸しの状態とみられ、根が窒息して腐り始めているのでは」と話す。以上のことから、10日午前、同センターなどは、長さ6メートルの細長い鉄板を松の周囲15メートル四方の地中に約150枚を打ち込む作業を始めた。土中の海水をポンプでくみ出すことも検討している。一本松の幹には「こも」などが高温にならないように巻き付けられ、根元の表土には適度な温湿度を保つようワラも敷き詰められた。ところが、満潮時に地盤沈下によって根元が海水をかぶることがあり、根の周囲に土のうなどを積み上げている。大阪工業大の松の保全に詳しい小川真客員教授は「松が生息するのにはギリギリの環境。今のままでは枯れてしまう恐れもある」と話す。先月28日の調査で、わずかだが新たな葉が芽吹いているものや、樹皮をはがし樹液が流れだしたことが確認された。「厳しい状況ではあるが、津波に耐えぬいた生命力を改めて感じた」と日本緑化センターの滝さんは話す。一本松から採取した枝を、独立行政法人「森林総合研究所」の林木育種センター東北育種馬(岩手県滝沢村)の苗木に接ぎ木する作業を始めた。移植が可能になるのは3年後という。「大津波に耐えた姿を見て希望を与えられた被災者は多い。一本松を救い、高田松原を再生させたい」と「高田松原を守る会」の鈴木善久会長は話す。