1千~2千㌶。この数字は、林野庁が推定する震災による海岸林の被害規模を表す数字である。林野庁が各県からの情報などをもとに算出した。これは、海岸からの奥行きを100mと仮定すると、長さ100キロ以上にわたり海岸林が被害を受けた計算になる。その多くはアカマツやクロマツである。「今回の震災では、被害を受けなかったかのように残った林から、根こそぎ流されてしまった林まで、さまざまなパターンがある」と話すのは(茨城県つくば市にある森林総合研究所)の気象害・防災林研究室の坂本知己室長である。 海岸林にあった木の状態は大きく4種類に分けられる。①無事に立っている木②根が抜けかけながらも流されていない木③幹が折れて流されたものの根元は残った木④根こそぎ抜けて流された木である。海岸林を津波が襲った時、十分な林帯幅がなければ背後の街や農地に津波が達してしまう。しかし、①のような木であれば船の漂流物などを止める効果が期待される。②や③も水に対する抵抗となって津波の勢いを和らげてくれる。ただ、③や④は流木となって、さらなる被害拡大の原因となりかねない。 山形大の林田光祐教授(日本海岸林学会副会長)は「海岸林の効果は地形と合わせて考える事が大切だ」と話す。海岸砂丘が少なく地盤が低い所に海岸林がある岩手県や宮城県では、津波が海岸林の背後にまで進入した場所がほとんどであった。反対に高い砂丘の上に海岸林がある茨城県では、津波の被害が東北より小さかった。季節風の吹き付ける日本海側に比べて、太平洋側にはあまり砂丘が発達しない。また、リアス式海岸では平地が少なく、林帯幅の狭い海岸林が多くなる。塩害や飛砂、強風の防止を主目的として育てられてきた海岸林は、美しい景観の形成、生物多様性の保全といった役割も担ってきた。坂本さんは「海岸林が果たした役割のありがたみを感じる事になりそうだ」と話している。 苗木を植えても、林の回復には数十年かかる。当面はネットや垣根などを設けて失われた機能を補完させる事になる。林田さんは「多くの役割を担ってきた海岸林を回復させる意味は大きい。地域ごとに、どの機能をどれくらい発揮させるのかを考えて、工法を検討していかなければならない」と指摘している。