岩手県陸前高田市の高田松原で、東日本大震災の大津波で被害を受けた中、奇跡的に生き残った一本松を保存しようと地元の有志が立ち上がった。海水による塩害をどう防ぐかが目下の課題となっている。また、不安要素のひとつに地下水の高い塩分濃度が挙げられる。植林のプロらが復活のシンボルを枯らすまいと知恵と技術を集結する。造園業者やボランティアが4月下旬に県内外から集まり、一本松の調査を始めた。堤防が津波により決壊したため海岸線が迫り、「このままでは塩害でやられてしまう」と、大船渡市の造園業、阿部信男さん(66)が陣頭指揮を執り、ショベルカーで堆積した土砂を除去し、海水の侵入防止のため、柵で半径10㍍を囲い、土のうを高さ2㍍まで積み上げた。 あくまでこれは応急処置である。一本松が生育を続けれれるかは、海水が地下水に混じって塩分濃度が高くなっているため、予断を許さない。根腐れを防ぐため、今後は地下にたまった海水を汲み出すなどの措置が講じられるという。また、組織を培養して苗を作ったり、枝を挿し木して育てたりするなど「子孫」を残す計画も、大学の研究者らの支援により進行中である。別の育成条件に合った場所に移植する案もあるが、多額の費用がかかり、「ボランティアで出来る範囲を超えている」と活動メンバーからの声も聞かれる。陸前高田市は「今は人的にも費用的にも行政で負担できる余裕はない。ボランティアにお任せするしかない」(企画部)。この先、保存活動は前途多難である。唯一の生き残りである一本松は、樹齢推定260~280年で、1896年の明治三陸大津波や1933年の昭和三陸大津波、1960年のチリ地震津波にも耐えた。「高田松原を守る会」の小山芳弘副会長は、「ちょっとやそっとの海水なんか、負けはしない」と話す。「一本松は復興を願う自分たちの希望の木。枯れないようになんとかして守りぬき、後世まで残したい」と話す。