富山県は立山町にある「富山県森林研究所」。ここの温室では現在、無花粉スギの苗が育っている。このスギは、1992年に富山市内にて発見された。「はるよこい」の名称で品種登録がなされたのは、2007年のことである。既に年間1千本の出荷が可能で、秋には初出荷が予定されている。また、同研究所では、神奈川、静岡、石川の各県にて発見された各種の無花粉スギを交配させる事によって新品種を開発することにも成功した。こちらは年間1万本の生産ができ、状況次第では来年から出荷することも可能である。の斉藤主任研究員によると、無花粉スギの品種は各地で発見されており、同研究所では「各品種ともに統一ルールで遺伝子に記号を付けてデータベース化をする事によって、無花粉スギの生産の効率化を図っている」という。第二次世界大戦が終戦を迎え、戦災復興のために天然林が乱伐された跡にスギやヒノキを植える「拡大造林政策」が行われたの1950 年代半ばのことである。スギやヒノキは他の樹木と比較して成長が早く、建築材としても優れていため、主要樹種として大量に植林された。森林・林業白書(10年度版)によれば、現存する人工林の約7割がスギ・ヒノキ林となっている。森林総合研究所の金指達郎チーム長は「政策によって大量に植樹されたこれらの樹木が成長し、盛んに花粉を飛散させる30年に達したことが、花粉症が急増した最大の要因」と語っている。 花粉量が通常の100分の1以下である事を「小花粉」というが、同研究所林木育種センターは、これまでに小花粉スギ135品種、小花粉ヒノキ55品種合わせて190品種の無花粉樹を各地に供給しているが、金指チーム長は「スギ林面積に対する年間伐採面積は約800分の1でしかなく、伐採のペースを早める必要がある」と語る。しかし、担い手の高齢化や国産スギの価格低迷によって林業の足元は危うく、放置された人工林が各地に広がっているというのが実状である。東京農業大学の宮林成幸教授は「適切な管理をしないと、樹木の生殖活動(花粉飛散)が強まる」と語っている。森林の生育に関して同教授は①天然のまま残す②林業に利用する③地域住民と共存する、という3つの観点から長期的視点に立つ事が重要であると提言している。群馬県みなかみ町や宮崎県綾町では、既にこの取り組みが行われている。国と地域が積極的に人工林を生物多様性に富んだ植生に戻すことが重要である。