今が旬の柿は、紀ノ川沿いの豊かな水と温暖な天候を生かし、和歌山県が全国2割のシェアを占める。「手間はかかるけど、きれいでおいしい柿を食べてもらいたからね」と話す桜井進さんは、計90アールほどの畑を手がける。日焼けしたり、色ムラがないよう、収穫直前に実の葉を一つ一つ切り取っている。春の低温被害で収穫量が落 ち込み、価格が高騰した昨年とはちがい、今年は天候に恵まれ、作柄も価格も平年並みの水準となっている。かつらぎ町で今の時期、主に収穫されるのは渋柿である「平核無」で、そのままでは食べられない。和歌山県では渋柿が7割を超え、甘柿は2割で井戸である。「渋柿の方が収穫時期が早く、秋の果物として売りやすいという面があった」と県果樹園芸課の上山智史主査は話す。甘柿である「富有柿」は平核無の収穫が一段落する11月の中旬から始まる。収穫時期が異なる品種を取り入れ、旬を長く演出している。なぜ、渋柿が食べられるのか。2007年に稼動したJA紀北かわかみ妙寺選果場(かつらぎ町)に「脱渋」装置がある。柿を一定の二酸化炭素濃度の装置内で2日ほど保管し、炭酸ガスを吸わせることにより、果汁に溶け込んでいたタンニンが見ずに溶けない形に変化し、美味しい柿となるのである。営農部の平岡久明さんは「温度や時間を間違えると、色が悪くなったり味が落ちたりするので、管理には気を使う」と説明する。県かき・もも研究所の金岡晃司主任研究員は、かつて「アルコールを吸収させると、二日酔いの原因にもなるアセトアルデヒドがごく微量発生する。これがタンニンを不溶性に変化させる」という「酔っぱらわせ法」が主流であったという。これの短所は、保存期間が短く、遠距離輸送に適さなかった点である。来年、JA紀北かわかみは、最新鋭の脱渋装置を導入し、作業の省力化を図る。大消費地に近い和歌山県では、新鮮な柿が出荷しやすい立地だが、若者からは生食を敬遠されることもあり、スイーツなどのファン拡大も急がれる。