いったい、1250年もの間、正倉院宝物はどのように守られたのか。湿度を調節するヒノキ材が校倉造りの宝庫に使われていたことも要因の一つだが、「唐櫃(辛櫃)」という杉の箱の、かぶせ蓋を閉じ、高い気密性を保ってきたという役割が大きい。外の湿度が50%変動した場合、宝庫内は20%、櫃内は3%に抑えられていたことが宮内庁正倉院事務所の調査で分かった。「唐櫃と校倉の二重の『木の箱』が宝物を守った」と成瀬正和保存課長は話した。宝物は、昭和になると温湿度を管理する鉄筋コンクリートの新宝庫に移動され、唐櫃は古い宝庫に空のまま残った。今では火や水に強い桐が宝物の箱に使用されることが多くなりつつあるが、奈良時代では工具なくて加工出来 なかったそうである。100個を超える鉋で自在に制作する京指物「友斎」(京都市)の前田友一さんは「脇役だが、なくてはならないもの。私も後世のために、恥ずかしくない箱を作りたい」と語る。