第63回正倉院展が今月末から開催され、「天下第一の名香」とうたわれた「黄熟香(おうじゅくこう)」が14年ぶりに公開される。通称「蘭奢待(らんじゃたい)」とも呼ばれ、東南アジアにのみ自生する沈香(じんこう)という香木の一種である。シルクロードを経てもたらされた国際色あふれる数々の宝物の中で、「芳香」という特異な魅力を持ち続けている。ベトナム南部の仏教寺院では、貴重な沈香を守ろうと1万5千本が植樹されてきた。幹の黒ずんだ樹脂を削り火をつけると、乳白色の煙と共に甘く艶やかな香りが柔らかに広がる。中部の少数民族では、沈香を薬や虫よけ、魔よけに使い、厳しい高地での生活の支えにしてきた。しかし、乱獲や焼き畑で天然木が減り、希少性は高まる一方。数十年、数百年と樹脂を蓄えた最高級品は、1キロ5千万円の値さえつくという。