さまざまな恩恵を与えてくれる森林。『生態系サービス』という言葉が、昨年名古屋で開かれた「第10回生物多様性条約締結国会議」の準備段階から盛んに使われるようになった。生態系サービスは以下の4つに分類して自然の恩恵を考えようとするものである。生態系がわたしたちの生活に必要なモノを提供する供給サービス、生態系の働きによる環境制御で得られる調整サービス、精神性や美的利益を含む非物質的な文化サービス、生態系自体を維持し、他の生態系サービスを支える基盤サービス。しかし、生態系サービス間にお互い相矛盾する関係が生まれることが多い。効率的に木材を生産する森林は、生物多様性が乏しく、撹乱からの回復の可能性が低いかもしれない。二酸化炭素の吸収が多い森林は、林産物が少なく、観光に不向きかもしれない。森林浴を楽しめる太古の森は、二酸化炭素を吸収する能力がすでに衰えているであろう。これらの相矛盾する生態系サービスに依存あるいは価値を求める人々の間に「よりよい森林」像をめぐり、利害対決が生まれるのである。今年は「国際森林年」であり、京都の国立京都国際会館で10月7日に「遠い森林、近い森林・関係性を問う」というシンポジウムが開かれる。相反する考えをもつ者が「誰の誰による誰のための」森林なのか、合意できるメカニズムを構築できるかをいま一度考える必要がある。