祭で使われる山車(だし)のひとつである地車(だんじり)は、国や府からは指定を受けていないが、大阪の古くから受け継がれている伝統工芸品といわれている。だんじり制作に携わって40年の彫刻師の田中忠さんはだんじり制作会社「彫忠」を経営している。ケヤキの香る作業所を八尾市に置き、東大阪市を中心に関西各地や岡山県からも依頼を受けている。田中さんが主に手がけているのは「上だんじり」といい、上部の豪華な彫り物が特徴である。また、岸和田市のだんじりは「下だんじり」で、重心が低くスピードが出やすくなっている。ほとんどの場合、だんじり造りは大工と彫刻師の分業で行われるが、彫忠では組み立ても彫刻も一貫生産である。田中さんは「一番気を使うのは安全性。事故が起こらないよう、急所は特に頑丈に仕上げる」と話している。だんじりの大きさは幅2メートル、奥行き4.5メートル、高さ4メートルほどで、価格は1台数百万円から1億円を超すものまである。主に国産のケヤキを素材に使い塗りを施さず白木のまま木目を活かしている。彫り物には、草木や鳥獣、源平などの合戦ものや武将を、子どもだんじりでは昔話の一場面を彫る。田中さんが得意な彫刻は龍であり、今にも動き出しそうな眼光鋭い迫力ある姿をしている。田中さんは「だんじりが練り歩き、活気や笑顔が生まれるのが一番うれしい」と話し、今秋も関西各地の祭りでだんじりが人々を魅了する。