国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)や読売新聞社が主催、NTTドコモ協賛の小学生のための世界自然遺産プロジェクト「ユネスコキッズ」の体験授業が、鹿児島県の屋久島、青森・秋田県境の白神山地で行われた。屋久島は周囲130キロメートルで、「洋上のアルプス」とも呼ばれる2000メートル近い峰々が連なっており、これらや南からの黒潮によって雨が多く降る。標高1000メートルを超えると、東北地方のような寒冷の気候になり杉が中心の森林が広がる。下にいくと、スダジイやタブノキなどの針葉樹林、ふもとではマングローブなどの熱帯・亜熱帯の植物が育っている。このような変化に飛んだ自然は「植生の垂直分布」といわれる。遺伝的に普通の杉と同じ尾久杉は樹脂を多く出すので腐りにくく、現在は伐採を禁止されており、「土埋木」と呼ばれる倒木や切り株を利用したものが土産として売られているのである。静けさに包まれた木々の中、山岳ガイドの渡辺太郎さんは、杉の根元のミズゴケを指し、「7リットルもの水を蓄え土の代わりになっている」と説明した。倒木の幹や岩に苔が付いて成長しているのを「着生」といい、この上に新たに木々が育ち森が成り立っているのである。太古の杉が残る自然休養林「ヤクスギランド」では、森が自然に若返るプロセスの一つである「倒木更新」、土砂崩れで高い樹木がなぎ倒された跡でヒメシャラや細い杉が所狭しと伸びていた。1200メートル程度の山々が連なる白神山地は、ブナ林が雨水を蓄え、沢筋が発達している。山に依存してきた人々はブナやミズナラを伐採して燃料にしてきたため、世界遺産エリアでも中心地域の周囲の森は手つかずの原生林ではないのである。人手が入っても原生林に近いレベルで貴重な自然が白神に残されていることが重要なのである。白神の森の中で白神山地ビジターセンター解説員の櫛引英雄さんは次々と道端の草木の説明をした。皮が縦に裂けるヤマブドウ、食べることができるウワバミソウ(ミズ)、朝鮮人参の代用になる赤い実をつけたトチバニジン、ヨウジやハシの材料になるクロモジの木。「ナタメ」と呼ばれる道しるべをブナの木に刻んだ。雨は、ブナの葉から枝、木の幹を伝わり蓄えられ、森は天然のダムになると解説した。ブナ林は町有地であり、黒森地区の共有財産である「官地民木」システムで保護されている。破壊の危機にあった白神山地は伐採を止める活動がなければ世界遺産登録はなかったのである。