関西電力は約20年かけて病害虫などで樹勢が衰えた松や桜を、植物と共生する菌類「菌根菌」を使ってよみがえらせる新技術を開発した。10月から樹勢回復資材として販売する予定である。菌根菌はキノコの仲間で、マツタケやトリュフなどもその一種。植物の根に付着し、植物が光合成で作った糖類を吸収しているが、そのかわり土壌から得た養分や水分を植物に供給している。関西電力が、植物と持ちつ持たれつの関係にある菌根菌に注目したのは、1991年であり、発電事業で排出するCO2の削減に役立てばと、植物技術の開発に力を入れた際、樹木の成長に役立っていることがわかり、研究を始めたのである。国内で数千種類の菌根菌を集め、その中から特に樹木の成長に役立つ89種類を選抜した。2008年から温室内のクロマツとソメイヨシノの苗木に菌を付着させ、その効果を調べる実験を行った結果、樹木の種類に適合する菌根菌を苗木に施せば、肥料や水をほとんど与えない極限状態でも90%以上が枯れずに育つことが判明した。また、リンゴなどバラ科の植物を枯らす「白紋羽病」の病害抑制にも応用する。土壌中の微生物と菌根菌を組み合わせることで、病害を80%以上抑えることに成功した。担当研究員の奥田氏は「樹勢回復や病害抑制は従来、農薬や化学肥料に頼っていたが、農薬は有用な土壌微生物やミミズまで殺してしまう。菌根菌を使うと、『薬を使わない体質改善』が可能になるんです」と説明する。今秋の発売を目指すのはクロマツとソメイヨシノ用だが、今後、アカマツや枝垂れ桜、ケヤキなど、適用できる樹木の種類を増やす計画である。