マダガスカル中部のザフィマニリ地方の村では、家屋はすべて木造である。緑深い山あいのすこしの平地に、数十軒の切り妻屋根がひしめきあって建っている。新築現場を見せてもらうと、大工のラベマハラブさんが、壁に張る板を削る。松の木に、ナタの刃をためらいなく入れていく。削り過ぎることも、削り足りないこともなく、柱や板の組立てには、釘をまったく使用しないのである。屋根は割った竹でふく伝統工法である。図面はなく、道具はナタと物差しだけである。木や竹に関する知識と技術を持つのは、彫刻家や大工に限らない。どの村人も子どものころから木や竹と戯れ、扱うすべを身につけている。丘の上に伝統的な木造家屋が密集するアンボヒマナリボ村では、住民が5年前に集会を開き、伝統工法以外で家を建てないというルールが設けられた。これについて、ラクトゥ・マヘファ村長は「貧しい集落に観光客を呼び込むには、昔ながらの集落の風景を守る必要がある」と言う。何時間もかけて徒歩で訪れる欧米からの旅行者もおり、村にとって貴重な現金収入となっているからである。ただ、伝統にはほとろびも見える。村に一軒、トタン屋の家があった。町で材木業を営む男性が昨年、築いた家であり、「彼はお金持ち。トタン屋根が便利だと言い張り、説得に応じなかった」と村長は話す。アントエチャ村では、地元出身の有力者が鉄筋コンクリート3階建ての住宅を建築中である。これについて長老は「木も減っており、強制はできない」。木とともにある生活は、他の材料が手に入らない中で、やむを得ない選択だった面も否定できないのである。現地を頻繁に訪れるフランスの地理学者ダニエル・クロ氏は「村人に今後も不便を強いていくには無理がある。生活を向上させると同時に伝統も維持していく開発を模索しなければ」と話す。