山林所有者の依頼でヒノキやスギを伐採する職人を杣という。杣である安江さんは所有者と相談しながら、山林の手入れもしている。苗木を植え、5年ほどは苗木に日光が当たるように下草を刈る。次に周囲の木と枝が絡まないように間伐をする。10~12年たったところで周囲の灌木を除木したり、材木に節ができないように枝打ちしたりもするのである。安江さんは岐阜県林業短期大学校に進み、上矢作町(現恵那市)の森林組合に就職。3年後、地元の加子母森林組合に移り、山を守るグリーンキーパーとして7年働き、30歳で独立した。注文を受けるだけではなく、木の実のなる広葉樹なども植えて、山林の保水性を高め、動物も住みやすくなるようにしている。自分なりの森のプランを所有者に提案し、持続性のある山林づくりを目指しているという。加子母は94%が山林で、ほぼ半分が民有林、残りの半分が国有林である。加子母の全世帯の8割にあたる841人が山林を所有し、組合員になっている。山林所有者は臨時の出費があるようなときに、木を売る。加子母では、山の基盤は道づくり、と代々の村長が林道を整備してきた。だから、山の手入れがしやすい環境が整っている。不足しがちな杣など山林の作業員も、森林組合がグリーンキーパーとして養成し、30%の12人が定着している。目下の課題は、いかに山林に資金を還元し、いい環境を持続させるかである。輸入材によって押し下げられる木材価格対策として森林組合が立てる作戦は2つ。ひとつは、1枚の山林を、林齢を30年ごとの間隔で構成する複層林にして、安定収入を目指す。もう一つは、消費地の木造建築の工務店と提携して、市場価格予より高値で加子母の材木を丸ごと買い取ってもらうことである。中島総合研究所長の中川護さんの案内で国有林も見学した。中川氏は長年、名古屋営林局に勤務し、加子母の国有林を管理する付知営林署(現東濃森林管理署)の署長も経験した。国有林には全国でも珍しいヒノキの天然林が残っている。一画には、20年に一度遷宮する伊勢神宮の御用材の一部を供給する木曽ヒノキ備林もある。国の財政事情により天然林がすべて伐採される恐れもある。中川さんはヒノキの巨木を見上げながら言う。「この天然林は宝です。何とか残さなければなりません」良質な山林をいかに守るか。加子母では問われ続ける。