花粉の少ないスギの研究はすでに1980年代に始まっている。国が森を、国民の憩いなど多様な機能を持つ場と位置づけるようになった時期と重なる。森林総合研究所材木育種センターでも2003年から無花粉スギの研究を始めている。それまでの目標は成長が良く、材質が優れ、病虫害にも強い「精英樹」の育成であり、タネがたくさん採れることも重要なことであった。しかし無花粉スギとは、タネが採れないスギということであり、大きな方向転換である。同センターでは、育てている約2千のスギの クローンの中から2年かけて花粉のない一つを見つけ出した。別の場所で育てていた同じスギも無花粉と確認ができて、「爽春」の名前で2005年に品種登録申請された。爽春は元々寒さに強い品種として保存されていた。さらに成長が早く材質も良い無花粉スギを開発するために、他の精英樹との交配実験が続いている。1世代が長い木の研究には時間が必要だ。いい材質かどうか見極めるためには20年、30年とかかる。すぐに結論が出せないつらさがある。また、最大の解決策は間伐を進めることであり、花粉量が多い樹齢30、40年のスギの間伐や枝うちを進める通達は1990年に出たが、国産材の価格が低迷して間伐や搬出の手間賃も出ないという現状が、現場には立ちふさがっている。