森林の蓄積、40年で2倍強 温暖化問題で見直し 日本の森林面積は約2500万ヘクタールで、実に国土の67%が森林である。これは先進国でトップクラスを誇っている。また、戦後植栽された人工林が成熟したため40年前と比べて、森林蓄積量(森林面積に樹木の成長度合いをかけたもの)も約44億立方メートルと2倍強にまで膨らんだ。そうであるにも関わらず、国内で使われる木材の約8割が安い輸入材で、国産材は価格も1980年代から下落し、今では林業者の出荷コストさえ回収できない水準になっている。結果、森林が放置され、林業は衰退していき、それに伴って山村の高齢化、過疎化が進んでいる。しかし、今この林業の経営環境が大きく変わり始めている。それは、京都議定書で約束した温室効果ガスを6%減らす期限が2年後に近づいていることだ。そのための計画として、3.8%分を森林のCO2吸収量でまかなう考えだが、森林の手入れが進まないため吸収力が減退している現状から、国や市町村が森林整備の支援強化に動き出している。さらに、中国の木材需要の急増やロシアの木材輸出関税の引き上げなどで輸入材が値上がりしたため、国産材との価格差も最近は小さくなってきている。このような状況下で、戦後の拡大造林で生まれた人工林も多くが主伐期を迎えた。まさに、森林整備を加速し、林業を活性化させる好機といえる。重要なのは伐採後の持続的な森林循環システムの構築だ。森林は木材生産などの経済的機能以外に、水源かん養、土砂災害防止などの公益的機能があるので、森林資源を恒久的に維持し、森林が生み出す利益を地域に還元する絶え間ない努力が必要だ。
飛騨地方 建設業者と連携 担い手不足解消 岐阜県北部の飛騨地方は、林業と建設業が連携した”林建協働”の先進地である。高山市などの森林組合、建設業協会が2008年5月に、「ひだ林業・建設業林づくり協議会」を設立しモデル事業に乗り出した。飛騨の森林面積は埼玉県に匹敵するほど広いが、山林が荒廃し人工林が主伐期を迎えても、担い手不足で作業道さえも満足に整備できない状況にある。そこで、余剰人員を抱える建設業と、担い手不足の森林組合が森林の整備を軸に提携し、約20社の建設業者が林業への本格参入に必要な実地研修を重ねている。協議会会長の菅沼武さんは「モデル事業は3月末で終わるが、林業の知識、技術を持つ建設業者が育っている。林業改革の本番はこれからだ」と評価している。そして、研修を受けた建設業者が独自の手腕を発揮し、林業に新風を吹き込むことを期待している。現在、国の補助を受けての林建協働の動きが各県に広がっている。また、地球環境問題への関心の高まっていることもあり、森林整備に参加する民間企業、ボランティアの動きも活発だ。三重県四日市市のNPO法人「森林(もり)の風」は、ボランティア活動より一歩進んだ、森林組合の請負間伐などを手がけるセミプロ集団を目指している。これまで延べ約3600人が森林施業の研修を受けた後に参加している。都市の住民が山に入り、プロ顔負けの技術で森林を耕す時代が始まっているのである。
高知県梼原町 組合、工務店回り 高知県梼原町は、愛媛県との県境の四国山地の懐にある林業の町だ。森林が、町全体の90%にあたる2万1500ヘクタールを占めている。ここには、約1100人の町民が加入している梼原町森林組合の森林価値創造工場という工場がある。そもそも、この工場はある戦略のための中核施設である。その戦略とは、官民一体となって、町が誇る森林資源の恵みを循環させることで、地域を活性化させる仕組みづくりを進めるというものだ。組合は、森林整備や原木の伐採・搬送だけでなく、直営の工場で製材・加工・受注まで行う一貫工程によってコストを減らし、輸入材との競争力を高め、雇用拡大にもつなげている。さらに工務店を回り、住宅建材を細かく受注している。2000年には、国内の森林組合で初めて、持続的な森林経営の国際認証FSCを取得した。そして、FSC材をブランド化し工務店などの需要先の開拓の一方で、工場の乾燥・加工施設を拡充した。また、町などと共同出資をして木質ペレット工場を立ち上げ、2008年からは間伐材をペレットに加工して、ハウス農家や一般家庭などへ販売を開始した。また、雇用創出においても加工部門で3人増やし、今年の春には2人を採用するなど効果が出ている。町は林業の再生を軸に地域社会の自立を図る環境モデル都市づくりに乗り出し始めた。加えて、CO2吸収力を高める森林資源の地域循環システムの構築を目指している。そのための取り組みとして、「四国カルスト」に風力発電を2基設け、2002年から毎年、売電益の2000万円で間伐の支援や、2006年には国内最大級の「木」の総合庁舎を建てるなど地産地消の「木使い運動」を進めている。矢野町長は「林業再生は全町的な取り組み。まだ道半ばだが住民のきずなを強め、地域を活性化させる原動力」と話す。