吉野林業の中心地である奈良県東吉野村のスギやヒノキの林には、切り倒された樹齢50年の丸太が重なり合うように横たわっている。かつては、細い間伐材も丁寧に集め、加工して使っていたが、今は間伐材が利用されることはない。京都議定書で、日本は温室効果ガスの削減目標である6%のうち、最高で3.8%まで森林吸収量が使える。ルールの上では、森林経営の一連の作業を行うことで、吸収能力を確保できる。間伐はその中でも必須の作業である。政府は、例年の間伐面積に20万ヘクタール分を上積みした55万ヘクタールを、2007~2012年までの毎年間伐すると決定した。しかし、毎年急ピッチで進む間伐のほとんどが切り捨てられている。建設現場で金属が用いられるようになり、1980年代から間伐材を林内に残す「切り捨て間伐」が目立ち始めた。その量は1年に2000万?に達し、これは東京ドーム16杯分になる。切り捨て間伐が広がるのと同時に、切り株の断面に浮かぶ変色の形から、林業関係者が「ホシ」と呼んで恐れるニホンキバチの害虫被害が全国に広がっている。キバチはスギやヒノキの立ち木に卵を産みつけ、幹の内部を黒褐色に変色させる。そして数十年育てた樹木をじわじわと傷ものにし、半値以下の価格にしてしまう。キバチは卵とともに幼虫の成長を助ける共生菌を幹に送る。星型のシミは、樹木が共生菌の広がりに対して防御反応を示した結果である。伐採後の間伐材は防御反応がないので、格好のすみかになり、結果キバチが増え、周囲の木にも卵を産みつける。間伐材の有効利用は後回しになり、病害虫の温床が林業再生の足元を揺るがしている。