「当たり前だと思っていたけど、環境にもいいと評価されてね。」バンダアチェから車で30分ほど。ラウムジョン村で、養殖業を営むアズバル・イドリスさん(43)が照れ 笑いを浮かべた。海岸にほど近いこの村の養殖池で、アズバルさんと仲間がマングローブ林の再生に取り組んでいる。数年前、土手に沿って植えた木は青々とした葉を茂らせて高さ2㍍ほどに育った。2004年12月に起きた地震の後、最高6㍍の津波が4回、村を襲った。アズバルさんは木に登って難を逃れたが、住民600人のうちアズバルさんの娘を含め200人が命を落とした。家や養殖池、マングローブもすべて流されたという。アズバルさんは昔からのマングローブを生かした養殖を再開するため、自ら植栽を始めた。土壌を守るだけでなく、魚やエビ、カニの隠れ家の役割を果たす。根に付く岩ガキも貴重な収入源だ。これに世界自然保護基金(WWF)などが目を付けた。06年に苗を買い上げて村民に提供し、植栽作業にも賃金を支払って生活を支援する活動を始め、24㌶に18万5千本植えた。アチェでは津波前は周辺地域と同じように海岸沿いのマングローブ林がすべて養殖池になる例が多かった。マングローブ林が多い地域で津波被害が軽かったとの報告があり、インドネシア政府は州内の海岸沿いを植林でつなぐ計画を立てた。WWFなどは二酸化炭素を吸収する点にも注目する。防災、環境、漁業と「一石三鳥」とも言える活動を広げている。日本赤十字社も同様な活動に取り組む。州東部のリンカクタ村。日本の林業専門家が村に足しげく通って指導し、稚魚も提供。また、日赤は合わせて9ヵ所の村で100万本を植えた。アチェ州津波後の05年、独立武装組織と政府軍の間で和平合意が実現した。広範な自治が認められ、元武装組織幹部のイルワンディ・ユスフ知事がいま環境保護に力を入れている。