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- ID:
- 25311
- 年:
- 2012
- 月日:
- 0920
- 見出し:
- これが言いたい:外資買収問題の背景は根が深い
- 新聞名:
- 毎日新聞
- 元URL:
- http://mainichi.jp/opinion/news/20120920ddm004070007000c.html
- 写真・動画など:
- なし
- 記事内容
- 「外資による森林買収」の実態が初めて明らかになったのは2010年6月、北海道議会においてだった。以来、国の規制を求める声は急速に高まり、自治体等から国へ提出された意見書はこれまでおよそ100件に上る。
今春、北海道は水源地の土地売買の事前届け出制を義務づけ、埼玉、群馬両県も同様の条例を創設した。茨城、福井、長野、山形各県などもこれに続く構えだ。
「本来なら国が法整備すべき話。国が動かないので、まずは条例でできる範囲の対応をするしかない」。自治体関係者はそう嘆くが、国の反応は鈍い。
自治体が危機感を抱く背景には日本の土地制度の特異性がある。
現在、「土地」の情報は不動産登記簿のほか、固定資産課税台帳、国土利用計画法(国土法)に基づく土地売買届け出など目的別に作成・管理されている。だが、精度は低くその内容はばらばらで、国土の所有に関する情報を行政が一元的に把握できるシステムはない。
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一方で、個人の土地所有権は極めて強い。農地以外に売買規制はなく、利用規制もゆるい。国境離島、防衛施設周辺など安全保障上重要な区域の土地売買、利用についても法整備は進んでいない。
外資による一連の森林買収は、グローバル経済の拡大と地域社会の縮小という時代変化を示す象徴的な現象と言える。土地・水・森が国を超えた投資の対象になる一方、人口減少と高齢化により、そうした地域資源の所有者や担い手が地元不在になってきている。
国土の約4割を占める私有林のうち、いまや4分の1は不在地主が所有する。北海道では55%が不在地主だ。今後、相続の増加やグローバル経済の拡大により所有者が村外、県外、さらには国外在住というケースも増えていくだろう。「土地所有者=在村地主=管理者」という図式はますます成り立ち
にくくなる。
この問題は「外資が買収」という現象面ばかりがセンセーショナルに取り上げられがちだ。だが、問題の核心は「こうした時代変化に制度が対応できておらず、国土の売買実態や所有者情報を行政が正確に把握しきれない」点にある。
北海道は一昨年、森林保有企業2141社へ調査票を郵送したが、当初4割以上が宛先不明で返送されてきた。
土地所有者の不明化は道路など公共インフラ整備のための用地買収、土地の集約化、災害復旧、治安など日常のさまざまな活動に影を落とす。固定資産税の納税義務者の不明化にもつながる。場所によっては国の安全保障にもかかわる。「消えた土地所有者」問題は静かに、しかし確実に行政コスト
を高める。
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国はこうした時代の変化を直視し、現行制度の見直しを早急に行う必要がある。例えば、現在の不動産登記制度では、登記時しか住所が記載されない。また、所有者変更(物故、転売等)があっても、そのまま放置されれば自治体はたどれない。そもそも権利登記は義務ではない。土地所有者が多様化し
ていくことを想定した制度設計が求められよう。
土地売買については例えば、国土法の「監視区域」等の規定を安全保障や資源保全に広義に適用するなど、一定の規制強化も必要だろう。土地所有の匿名化は避けるべきだ。現行の土地法制の課題を考えれば、顔の見えないインターネット入札による国公有地の拙速な売却についても慎重であるべき
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