v10.0
- ID:
- だ。
「国土の保全」と「開かれた経済活動」を両立させるため、まずは足元の土地制度の改革が急務である。
25321
- 年:
- 2012
- 月日:
- 0920
- 見出し:
- くらしの「手」<上>スギの皮で屋根を葺く みなかみ町法師温泉
- 新聞名:
- 東京新聞
- 元URL:
- http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20120920/CK2012092002000150.html
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- 葺(ふ)き終えたばかりの屋根は、背後の森にもうなじみ始めていた。
みなかみ町の法師温泉長寿館。足元から湧く生まれたての湯を守る浴舎と、玄関のある本館は共に木造で、屋根をスギの皮で葺く。
「三国街道の浅貝宿(現新潟県湯沢町)も永井宿(みなかみ町)もみんなそうでしたけど、もう見なくなりましたね」と常務の岡村国男さん(64)。「でも、古い物を使いながら、昔の形を維持することに価値があると思うんです」
今夏、屋根を葺き終えた本館は明治八(一八七五)年の建造だ。もともとスギ皮は「そこにあるもの」を活用した。当初は同館のある山の中腹まで通じる道がなく、昭和二十年代までは雪が降ると馬ぞりでお客を送迎した。瓦を運び込むなど考えられなかった。スギは地元でとれ、一般的な材だった。
広さは約七百二十平方メートル。一五センチ×六〇センチほどに切ったスギ皮を、手で一枚ずつ隣と重ねながら並べていく。一列終わったら竹で押さえ、皮とおしと呼ばれるくぎでとめていく。
「知恵が分かるんです」と施工した同町の高橋住建社長、高橋由行さん(55)は、昔の形をなぞるのがおもしろいと言う。スギ皮を並べるのに、一列目で右側を上にすれば、次の列は左を上に、と交互にする。そうすることで雨風を分散させる。多いところで十五枚ほど皮が重なり、強度も出る。
材のスギの皮をはぎ、竹を割るのは、木が水を吸わなくなる秋から冬。水分が多いと虫がつきやすくなる。皮とおしは長さが十センチほどあるのに、竹を割らないよう太さは一・六ミリと細く作られる。
スギ皮は十年ほどもつ。最近、雪の降り方が変わり、劣化が早い。しんしんと少しずつ降り積もっていたのが、一度にどかっと降る。雪が固まらなくて、雪下ろしで屋根に上がった人の足が直接当たって、皮を傷める。今回の葺き替えは、前回から八年と二年早めだった。
「でも、いつまで持つかな」と岡村さんはつぶやく。スギ皮の値段が前回のほぼ倍に上がった。負担は重い。昭和四十年代まで、林業が盛んだったころは安価だった。最近は急激に上がる。全体の費用は当時の十倍以上という。スギ皮は、枝打ちなどの手入れをして六十~八十年育った木からとる。今は、ス
ギが安くて労力をかけるのに見合わないからと町内でも手入れされない山がたくさんある。今回使った材は、栃木と奈良産だ。インターネットで中国産も売られている。「職人もいなくなるかもしれません」と高橋さん。
「効率を考えれば、ほかの材に変えた方がいい。はるかに安く、楽です」と岡村さん。「でも、この建物も温泉も自然の一部。その中で商売するにはこの苦労は避けて通れないと思っています」
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自然と地域と暮らしの接点に、手仕事が生まれてきた。今、東日本大震災や東京電力福島第一原発事故を経て、経済や効率優先で拙速につくられた社会の暮らしを、見直す機運があるという。各地の手仕事を訪ねてみる。 (この企画は鈴木久美子が担当します)
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