v10.0
- ID:
- 25259
- 年:
- 2012
- 月日:
- 0913
- 見出し:
- 質問なるほドリ:「一本松」ってどうなるの?
- 新聞名:
- 毎日新聞
- 元URL:
- http://mainichi.jp/opinion/news/20120913ddm003070170000c.html
- 写真・動画など:
- なし
- 記事内容
- 「希望の象徴」として保存 芯はカーボン製、寄付呼び掛け
なるほドリ 岩手県陸前高田(りくぜんたかた)市の「奇跡の一本松」が切り倒されたね。
記者 マツの生えていた海沿いの土地は東日本大震災で沈み、海水が染みこんだため根が腐って枯れてしまったのです。放っておけば落雷や台風でも倒れる危険があり、保存処理をすることになりました。
Q そもそも、なぜ「奇跡の一本松」と呼ばれるのかな。
A 陸前高田市には元々、日本百景にも数えられた「高田松原(たかたまつばら)」という約7万本のマツ林がありました。江戸時代に植えられ明治三陸地震(1896年)、昭和三陸地震(1933年)、チリ地震(60年)の津波から人々を守ってきたのです。しかし、震災の大津波は松原を跡形もなく消し去り、まち
ものみこんでしまいました。ところが1本だけ流されずに残ったマツがあったのです。がれきと化した古里で空に向かって立つ姿は、被災者に復興への希望と勇気を与え「奇跡の一本松」と呼ばれるようになりました。
Q 保存方法は?
A 一本松は高さが27メートルあります。これを9分割の輪切りにし、芯をバームクーヘンのようにくり抜いて防腐剤(ぼうふざい)を染みこませます。次いで地面に立てたカーボン(炭素繊維強化樹脂)製の柱の上から順番に落としていきます。枝や葉は型取りして複製品で代用し、見た目は枯れる前と同じよう
にするのです。作業は愛知県や京都府の工場で行い、来年2月末には元の位置に戻る予定です。年2回は手入れを施して、傷みを防ぎます。
Q お金もかかりそうだね。
A 陸前高田市と業者との契約金額は、約1億5000万円です。ただ復興には防潮堤をつくるなど巨額の資金がかかります。自宅を失った市民もたくさんいるので、市は税金で賄わずに「保存基金」を設け募金をしています。10日までの約2カ月間で、国内外から計2687万円(654件)が集まりました。まだ
目標金額に届かないので、取りあえず「市からお金を借りる」形で業者に全額支払い、後で返済するという手法をとるそうです。
Q ふーん。だけど枯れた木に大金を使う意味はあるの?
A 業者は今回の処置で10年は保存可能と見込んでいます。市の復興にも10年の歳月が必要です。精神的な支えとしての「希望の象徴」が欠かせないと市民は判断したのです。
Q 異論はないのかな。
A 評論家の中には、壊れた公共建築物の方が被害を後世に伝えるとの意見があります。広島市の原爆ドームを「戦災遺構(いこう)」とするのと似た理屈です。ただ、人口の1割近い1778人が犠牲になった陸前高田市では、「悲しみの象徴」を見たくないという感情も強いのです。その是非を皆さんも考えて
みてはいかがでしょうか。震災を「風化」させないためにも。
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