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- ID:
- 24034
- 年:
- 2012
- 月日:
- 0413
- 見出し:
- 安国論寺「妙法桜」の組織培養による苗木増殖に成功
- 新聞名:
- 日本経済新聞
- 元URL:
- http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=307502&lindID=5
- 写真・動画など:
- なし
- 記事内容
- ~鎌倉 安国論寺 日蓮聖人由来の名木~
“妙法桜”組織培養による苗木増殖に成功
安国論寺(住職:玉川 覺祥(※)、所在地:神奈川県鎌倉市大町4丁目4番18号)は、約750年前に日蓮聖人が前執権の北条時頼に上奏した『立正安国論』をこの地の草庵で著したとされ、寺号はこれに由来しています。四季を通じて花が多いことでも知られ、なかでも日蓮聖人の桜の杖が根付いたとい
われる妙法桜(みょうほうざくら)や樹齢350年といわれる山茶花(さざんか)が鎌倉市の天然記念物に指定されています。
※住職名の正式表記は添付の関連資料を参照
近年、樹勢の衰えにより将来の枯死が心配される中、安国論寺では後継樹の育成を住友林業株式会社(社長:市川 晃 本社:東京都千代田区)に依頼し、住友林業グループでは筑波研究所が中心となり苗の増殖を検討してまいりました。
2009年12月の山茶花の増殖成功に続き、このたび、日蓮聖人由来の“妙法桜”の後継樹増殖に、バイオテクノロジーの一手法である組織培養により成功しましたのでお知らせいたします。
※「妙法桜(撮影:原田 寛氏)」は添付の関連資料を参照
■組織培養による増殖を行なった理由
通常、桜の苗木は接ぎ木により増殖されますが、妙法桜は樹勢が衰えているため、枝があまり伸長せず、接ぎ木に適した状態の良い枝はほとんど採取することができませんでした。また、従来のクローン増殖技術である挿し木や接ぎ木で増殖した苗は、元の木が持つ病気も一緒に受け継いでしまう場合が
あります。妙法桜は、バラ科の植物が罹病しやすいといわれている根の病気にかかっており、樹勢が衰えてきております。その病気は、罹病当初は根の中を転移しますが、やがて幹にまで拡がるため、挿し木や接ぎ木で苗を増殖しようとすると、罹病した苗を増殖する可能性があります。しかし、組織培養、
特に茎頂培養法による増殖では、ほぼ無菌と言われている芽の分裂組織である「茎頂(けいちょう)(=生長点)」を材料に使うため、元の木の病気を受け継いでしまう心配がありません。
また、1つの芽から多くの苗を増殖することが可能であり、さらには無菌の試験管内で増殖を行うため、病虫害による被害の心配もないため、培養液を定期的に交換していくだけで、半永久的かつ安全に種苗を保存することが可能となり、貴重な名木を将来にわたって受け継いでいくには最適の方法と考えられ
ます。
筑波研究所では、“妙法桜”という希少な品種を後世に引き継ぐために、組織培養法の一手法である茎頂培養法を採用し、苗木の増殖技術を開発することとしました。茎頂培養法は、芽の分裂組織である「茎頂」を顕微鏡下で摘出し培養する方法ですが、突然変異が起こる可能性が非常に低いことから、
妙法桜の特徴を完全に受け継ぐものと考えております。
<解説>
*挿し木:
植物の枝や茎を切り取り、土に挿して発根させることで植物を増やす手法。
*接ぎ木:
植物の枝を切り取り、同種または近縁の植物の幹に接ぐ繁殖方法。
根の部分を「台木」、接ぐ部分を「接ぎ穂」という。
*植物組織培養:
無菌条件下において、植物の成長に必要な養液中で植物を増殖する技術。
茎頂培養、胚培養などの手法がある。
■今回の組織培養法による増殖概要
(1)冬芽を採取し、その中から芽の分裂組織(茎頂部)だけを顕微鏡下で摘出する。
(2)茎頂部を妙法桜用に開発した培養液中で培養することにより、大量の芽(多芽体(たがたい))を生産する。
(3)培養液を寒天様の物質で固めた培地に多芽体を移植し、芽を伸長させる。
(4)伸長した大量の芽を1本ずつ切り分け、発根を促す培養液を添加した人工土壌に植えつけると、2週間程度で発根し、完全な植物体(幼苗)が再生される。ここまでは、無菌条件下で行なわれる。
(5)低温処理を2週間程度施した後、外部の条件に慣らすため温室内で育苗する(順化処理)。
妙法桜の組織培養による増殖は、これまで報告事例がなく、増殖のための条件を一から解明する必要がありましたが、既に成功している他のサトザクラの増殖条件が参考となったため、開発に着手してから約1年半で順化し(2008年12月に着手、2010年5月に順化に成功)、本年2月に畑に定植するこ
とになりました。
■今後の取組み
増殖した苗は、安国論寺への植栽を第一目標と致しますが、ご住職のご厚意により東日本大震災の復興支援の一環として被災地での植栽を実施する予定です。
岩手県陸前高田市の高田松原の中にあり、東日本大震災の津波により流亡した「日蓮宗 妙恩寺」の管理寺である「日蓮宗 妙見寺(宮城県白石市、住職:風間 文静)」と陸前高田市の地元住民の協力により、妙恩寺が高台に移転して再建されることとなり、同じ宗派の関係から、そこに妙法桜の培養
苗が植栽されることとなりました。
来年3月11日に、再建される妙恩寺での法要が予定されており、それまでに追悼の意味を込めて日蓮聖人由来の妙法桜を植栽したいと考え、今冬に植栽を行う予定です。
※「参考資料」は添付の関連資料を参照
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