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- ID:
- 49374
- 年度
- 2011
- 月日:
- 0106
- 見出し:
- 未来に受け継ぐ/3 七座営林署勤務を振り返る中村さん
- 新聞・サイト名:
- 毎日新聞
- 元URL:
- http://mainichi.jp/area/akita/news/20110105ddlk05040019000c.html
- 写真・動画など:
- なし
- 記事内容
- 日本三大美林の風格 予想できた資源枯渇
「あらーしのぉーよ」「どっこいさーの」
丸太を重ねて並べる「椪積(はいつみ)」作業の仕事歌。能代市二ツ井町にあった天神貯木場を管轄する七座(ななくら)営林署に1948年から10年余り勤めていた中村勇さん(87)=同町小繋=は、かつて周囲の七座山にこだましたという歌を口ずさんだ。そして当時の町を「活気に満ちあふれていた」と振
り返る。
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旧二ツ井町教委発行の「二ツ井町史稿」によると、天神貯木場の規模は河川敷地や国有林地を加えると約7ヘクタール。31年の開設当時は関東大震災後の復旧などで木材需要が大きく伸びていた。
貯木場の役割は、小阿仁川流域の材を集め、組んだイカダで米代川を使って能代まで運ぶこと。そのほとんどは天然秋田杉だった。最盛期は戦後の47~60年ごろ。森林鉄道が網の目のように張り巡らされ、最大で200人近くが働いていた。
天然秋田杉の魅力について中村さんは「人工杉に比べて目が細かく水分も少なくて耐久性があり折れにくい。見た目にも、日本三大美林と称されるだけの風格がある」と説明。現在、価格が人工杉の10倍以上することも珍しくない。
◆ ◆
だが天然杉は資源の枯渇で60年代半ばから伐採量が急速に減少。トラック輸送が増えたこともあり、貯木場は80年に廃止された。
「林業全体が天杉に依存しており、その規模の減少とともに町も縮小していった」と語る中村さん。2012年で天然秋田杉の供給が終わる見通しとなったことについて「全国に誇れるいい木がなくなるのは本当に寂しい」と話すが、この結果についてはだいぶ前から予想はできていた。
「戦後の需要の高まりで“増伐”が叫ばれた時代、木の成長量よりも伐採量が大きくなった。林力を維持できるのかと誰もが心の中で思っていたはずだ。それでもあるものを切らねばならず、やめられなかった」と振り返る。
広葉樹を切って杉を植える「拡大造林」も推進されたが、山の高い場所など条件の悪いところも対象になり、期待より成長が悪かった。これも無理に計画を進めた結果だったと思っている。
◆ ◆
中村さんは今、資源枯渇とは別のことにも危機感を抱いている。それは地域における人材の枯渇だ。
「私たちの時代は家に道具があり、小さな時から下刈りを手伝っていたのだが」。機械化、効率化と外部委託が進み、若い世代は山村で生まれ育っても山の作業を知らない。
それに木材需要の低迷で山を持っていることが負担になっているうえ、地域には働く場がなく後継者になり得る人たちが外に流出してしまっている。「今後、林業技術者は急激に減少するだろう。そしてますます山に関心がなくなる悪循環に陥る恐れがある」。それがすでに現実になりつつあると感じている。
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