v10.0
- ID:
- 49055
- 年度
- 2010
- 月日:
- 1210
- 見出し:
- 能登の風 SATOYAMA 世界へ
- 新聞・サイト名:
- 朝日新聞
- 元URL:
- http://mytown.asahi.com/ishikawa/news.php?k_id=18000001012090005
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- 国際協力機構(JICA)が11月中旬から約2週間、途上国で環境保全に携わる公務員らを県内に招き、里山・里海の取り組みを学ぶ研修を開いた。自然を維持しつつ利用する「里山の知恵」は、自然破壊や、その背景にある貧困問題に直面する途上国の人々にどう映ったのか。その様子を報告する。
(矢代正晶)
~*「里山経済」に注目 付加価値・新ビジネス「保全とバランス」*~
11月22日。アジアやアフリカ、中南米の13カ国の研修員14人は、棚田が広がる輪島市の金蔵地区にやってきた。
周囲を山に囲まれた人口160人ほどの小集落。過疎・高齢化が進むが、棚田で育てたコシヒカリを「金蔵米」としてブランド化するなど活性化に力を注ぐ。水源のため池も住民が管理し、サンショウウオや昆虫、水草の貴重なすみかになっている。
「棚田をどうやって維持するのか」「労働力は確保できるのか」。一行はさっそく、町おこしの中核のNPO法人「やすらぎの里金蔵学校」理事長・石崎英純さん(60)を質問攻めにした。
「農作業は高齢者が主力。生産には限界があり、里山の経済活動はどうしても高コストになる」。石崎さんは率直に答え、「いかに生産物に付加価値をつけるかが大事」とつけ加えた。
「日本の里山の考えを取り入れたい」。ネパール森林土壌保全省のクルスチェブ・スレスタさん(48)は意欲的だった。山岳国のネパールでは森林減少が深刻化。背景には、燃料を薪に頼るなどして過剰伐採する山村の貧困がある。働き手は中東などに出稼ぎに出かけ、村の荒廃に拍車がかかっていると
いう。
「日本の里山は、保全と経済活動のバランスがいい」。スレスタさんはヒントを見つけたようだった。
◇
10月に名古屋市で開かれた国連地球生きもの会議(生物多様性条約第10回締約国会議=COP10)で、政府が立ち上げた「SATOYAMAイニシアチブ国際パートナーシップ」(IPSI)。農村など、人の営みと自然が一体となっている日本の里山を「自然との共生の好例」と位置づけ、そのノウハウで世界
の生態系の維持・管理を支援する国際組織だ。
IPSIに加わるJICAはその一環として、支援先の途上国から参加を募り、県の6割が里山とされる石川での研修を企画した。里山と里海が近い能登の好条件のほか、金沢大学や県がIPSIに加わったことも後押しした。
インドネシア、エチオピア、パナマ、キルギス……。人口増や貧困、森林破壊といった課題を持ち寄った研修員らの関心は、「先進国」日本の“里山経済”に集中した。
珠洲市内のアカマツ林。金沢大学能登学舎(同市三崎町)と連携する地元NPOが手入れして荒廃を防ぎ、キノコ狩りやエコツーリズムなどに活用している保全林だ。案内役の研究者が自生するサカキを指して「祭祀(さいし)用に需要があり、高齢者が収穫して利益を得る新ビジネスも能登で生まれた」と説
明すると、一行は身を乗り出した。
「放っておけば森は荒れる。資源のワイズユース(生態系を維持した持続的利用)で複合的に収入を得て森を維持する、良いアイデアだ」。熱帯雨林を抱えるパナマ環境庁森林部のカルロス・マルチネスさんはうなずいた。
◇
研修も終わりに近づいた今月2日、全員が研修内容をそれぞれの国で応用する「行動計画」を発表した。スレスタさんは、ネパールの山間部を「保護地域」と「緩衝地域」に分け、緩衝地域で住民による小規模なビジネスを促すことで所得を上げて、保護地域の森林破壊を食い止める私案を考えた。
「金蔵の人々やサカキビジネスがヒントを与えてくれた」とスレスタさん。「ネパールには『上に上がるには強固な階段が必要』ということわざがある。研修は良いステップになった」
研修に協力した金沢大学の中村浩二教授(生態学)は「日本の里山も過疎化などの問題があり、模範生というわけではない。『世界の中の里山里海』という位置づけでつながり、共通点を探っていけばいい」と話している。
..