v10.0
- ID:
- 47712
- 年度
- 2010
- 月日:
- 0914
- 見出し:
- 中日春秋
- 新聞・サイト名:
- 中日新聞
- 元URL:
- http://www.chunichi.co.jp/article/column/syunju/CK2010091402000002.html?ref=rank
- 写真・動画など:
- なし
- 記事内容
-
何年か前、長野県・木曽を訪れた時、森林関係の資料館で、大きなヒノキの切り株を見たことがある。刻まれた年輪の何カ所かに史実が書き込まれており、例えば、ある年輪には「フランス革命」と
▼彼(か)の地で王権が倒れ、断頭台が血に染まり、ナポレオンが台頭していた十八世紀末ごろ、その木は既にいくらかの太さに育ち、静かに木曽の地に立っていたわけだ。悠久たる「木の時間」に感じ入った覚えがある
▼人間の方にも、最近やたら長寿の翁(おきな)がみつかったけれど、あれはみんな戸籍上だけの話。しかも、せいぜいショパンやダーウィンの“同世代”だ。その点、この木は実にイエス・キリストと“同世代”。無論、生地=現住所から消えることなく生きてきた
▼世界自然遺産の鹿児島県・屋久島に自生する推定樹齢二千年の屋久杉「翁杉」。幹の太さで「縄文杉」に次ぐ巨木だったが、残念なことに最近、地面から三メートル付近で折れてしまった
▼地元・南日本新聞の電子版記事が「縄文杉コースの中で、渋い脇役のような存在だったのに…」と落胆するガイドの声を伝える。ほかの“先輩”屋久杉たちも寂しがっていよう
▼既に幹は空洞化していたというから懸命に踏ん張っていたのだろう。ただ、特に大風が吹いたというわけでもないらしい。もしや次々明らかになる「長寿国」の実態に失望して、ついに頽(くずお)れたか。
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