ID :
9616
公開日 :
2009年 1月27日
タイトル
[近代化遺産/姫路・森家住宅
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新聞名
毎日新聞
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元URL.
http://mainichi.jp/area/hyogo/news/20090127ddlk28070490000c.html
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元urltop:
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写真:
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希少な城下町の町家 播州木材ふんだんに使い
近世の面影を残す家並みが続く通りで、細格子が連なる町家がとりわけ目をひく。世界遺産・姫路城下を流れる船場川沿いに建つ森家住宅は、比較的新しい明治期の建築だが、町家の再生を呼びかける市民グループ
が集い活動する拠点になっている。
森家住宅は姫路城の西に隣接する庭園・好古園から徒歩5分足らずの旧道に面して建つ。低い2階の軒下に虫籠(むしこ)窓が三つ連なり、1階玄関脇には鉄の格子が狭い間隔で立てられている。
引き戸をくぐって中に入ると、土間が長く広がる。頭上からは明かり取りの天窓の光が差し込む。京都の町家とどこか違うのは、全体にゆったりとしている点で、太い梁(はり)に豊かな材木の集積地だった播州の利点を
生かしたたたずまいである。材木町という町名は、高瀬船が行き来し、材木問屋が多く栄えた当時を思わせる。足袋底製造業だった森家も豊かだったと見られ、以前は四つの蔵があったという。今も、うち一つの土蔵が隣
接する。
4年前、同家の補修工事を手がけた建築家で、市民グループ「姫路・町家再生塾」のメンバーでもある平内節子さんに案内してもらった。1階居室に入ると、棚に同家の家紋である「三階菱」の大きな紋様がついた箱が
何個も並んでいた。気になって同家の森道子さんに聞くと、「代々嫁いで来た人の嫁入りちょうちんが入っています」と教えてくれた。
土間から上がると、座敷と仏間が一段高くなっていた。棚や欄間のある座敷は書院作りの雰囲気を放ち、格調を感じさせる。江戸期からの伝統工法が取られているようだが、廊下隅の木の扉のノブは金属製で、彫刻の
紋様も洋風に見える。2階に上がると、天井裏に大工の棟梁(とうりょう)の名と建築年の明治19(1886)年が記された棟札が張られていて、改めて明治半ばの建築であることを示している。
2階天井の梁の太さは30センチ近くあり、ここでも惜しみなく良質な播州産の材木を使っていたことがわかる。
平内さんは「床の間や欄間の意匠などに明治期の職人の心意気がうかがえ、全体にゆったりした町家の空間に身を置くことの幸福感を感じました」と語ってくれた。
「姫路・町家再生塾」は、森家住宅を通して町家の魅力を広く市民に知ってもらうため、講演会や見学会を開催し、昨年秋からは隣の町家で「しょうあん」というカフェを始めた。姫路城から少し足を延ばす客も増え始めた
。
船場川越しに城の方向を見ると、かつて徳川家から嫁いだ千姫が住んだ西の丸の甍(いらか)を見上げることができる。明治期の町家でありながら、近世の歴史ロマンにもひたれる家並みは、しばらく時間が止まってい
るような感覚をもたらしてくれる。(次回は2月3日)<文・写真 平野幸夫編集委員>
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◇森家住宅
姫路市材木町9。1886年完成。木造2階建て瓦葺(ぶ)き、切り妻造り。延べ床面積は約300平方メートル。90年、姫路市都市景観重要建築物に指定。非公開だが、問い合わせは姫路市都市景観指導室(079・221・2
541)へ。