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ID :  7199
公開日 :  2008年 4月16日
タイトル
[技を受け継ぐ心得を語る
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新聞名
nikkei Bpnet
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元URL.
http://www.nikkeibp.co.jp/news/biz08q1/568332/
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元urltop:
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写真:
 
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先日、不動産の仲介でひどい建物を掴まされた友人の愚痴話に付き合ったのですが、そういえば1級建築士による耐震強度偽装問題はじめ、建売住宅の明らかな手抜き工事など違法建築の話はよく聞きます 。それほど、建築業界はメーカーも、工務店も大工さんも大変な状況に置かれているようです。片方で、企業の基本方針を支える経営ビジョンと法令遵守・コンプライアンスの一体化が言われます。しかし建築業界に限 らずですが、今の状況では「ビジョンとコンプライアンスの一体化」など夢のような話でしょう。
我が家の新築を検討していた20年程前に会った、東北訛の強い、口数の少ない大工の棟梁のことを思い起こします。日光東照宮の宮大工の流れを汲む方で、本格的な和風建築の棟梁でした。「扇垂木」といって、寺など の屋根の四隅の軒を支える垂木を平行ではなく、扇のように放射状に張り出させる工法があります。棟梁はその工法を得意として、個人の住宅でも扇垂木の工法を生かしています。棟梁の建てた日本家屋を見ると、伝統 の技と現代建築のセンス、そして作り手である棟梁の誇りの感じられる堂々たる出来栄えでした。
その棟梁が時々口にした不思議な言葉がありました。「レイサンヤ・シニクチュウ・アリ」。語呂はいいけれど意味不明の言葉です。「三顧之礼」と題された漢詩風の文章の一行で、漢字で書くと「嶺山野史ニ玖中有リ」。この 言葉を覚える目的は、実は「0384200900」という数字を覚えることなんです。この後半はゼロの間に9があるので「クチュウアリ=00900」と読み下します。もう一つ、「貝原益軒・養生訓」と題された数字は「9800026632」 。これを「九月も近い八月は、丸い丸いお月様、二人は無理せずむつまじく、三途の川まで二人連れ」と覚えます。この数字はいったい何か。
この数字が頭に入っていると、現場で難しい計算式を思い出すこともなく、複雑で面倒な計算が計算機など使わなくてもその場で墨の線が引ける程に出てくるのだそうです。こんな風に、棟梁の体の中には、伝えられて きた高い水準の技と知恵が詰まっていました。