ID 2220
登録日
2006年 12月 5日
タイトル
湿地の四季】北海道・野付半島 立ち枯れの木々 鳥の声
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新聞名
産経新聞
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元URL.
http://www.sankei.co.jp/culture/bunka/061205/bnk061205000.htm
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元urltop:
-リンク切れ-
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写真:
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北海道・根室海峡に突き出す野付半島。湾曲した形は、地図の上で一匹のエビが跳ねているように見える。その“腹側”の野付湾に広がる干潟には、シベリアからハクチョウが飛来。朝夕には餌場とねぐらを
移動するため、羽ばたきながら水面すれすれを飛ぶ。
野付半島は日本最大の砂嘴(さし)で長さは28キロにおよぶ。知床半島などの川から流れてきた砂や小石が、海峡を南下する海流に運ばれて堆積(たいせき)した。海流は時に形成された半島を浸食。約3000年の時
を経て今の形となった。
「野付は千島の植生に近いんですよ」。野付半島ネイチャーセンター長の森田正治さん(61)が説明してくれた。
国後(くなしり)島は根室海峡を挟んで16キロ。海峡を越えて吹き付ける風や、国境を越えて自由に行き来する海鳥たちが、千島列島の植物を運んでくるのかもしれない。
半島中心部の同センターから、湿地沿いに歩いて約30分。湾の中にわずかに残る陸地に、立ち枯れした木や倒木が広がるポイント「トドワラ」に着いた。白い木肌がまるで骨のように見える。数百年前はトドマツやカ
ラマツの森だったが、海水の浸入で木々が立ち枯れて風化したという。
荒涼とした世界に鳥たちの声が響く。「見ることができるのは、あと5年から10年かもしれません」(森田さん)という。半島の湾側は今も浸食が進んでいることに加え、高波が容赦なく木を倒し、倒木を海に流してしまう
からだ。
この光景が見られなくなるのは残念…。こちらの気持ちを察したのか、森田さんは「アッケシソウやウラギクなど海辺で育つ塩性植物が元気になり始めています」と教えてくれた。
湾側と逆に半島の先端は堆積が進み、先へ先へと成長。いつかは湾曲した先端部と陸地がつながり、湾が汽水湖になる可能性もあるという。
湿地は静かに、そしてゆっくりと姿を変えていく。一見、穏やかな眺めに人が心を打たれるのは、その中に宿る自然の計り知れない力を感じるからかもしれない。
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