ID 10840
登録日 2009年 3月12日
タイトル
東京見聞録:高尾山 ちょっと専門的に味わう
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新聞名
毎日新聞
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元URL.
http://mainichi.jp/area/tokyo/news/20090312ddlk13040171000c.html
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元urltop:
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写真:
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仏ミシュランが16日に日本編を初めて発売する観光地格付け案内「緑のガイド」で、八王子市の高尾山が三つ星の最高評価を得た。07年発行の「簡易版」に続くミシュランの三つ星で、高尾山ブームは去りそ
うにない。だからこそ、ちょっと専門的にこの山の魅力を味わいたい。高尾山に通って50年の植物博士にガイドをお願いし、登山客の少ない3月上旬の平日を狙って訪れた。【内橋寿明】
◇「ブナとカシが巨頭会談」
赤、青、黄のカラフルなリフトが急な斜面を上っていく。青空の下、周囲には木々がうっそうと茂る。「天然のブナやカシがあって、原生林に近い林です。都心に近い場所でこれだけの林はほかにありませんよ」。並んでリ
フトに座った高尾山自然保護実行委員会の代表、吉山寛さん(81)が教えてくれた。
吉山さんは私立高校の元理科教諭。高尾山の植物研究を50年以上続けている生き字引だ。樹木の図鑑などの著作がある。30年前、すぐ現地調査ができるようにと、ふもとに引っ越してきた。
吉山さんが指さした方向に、今度は整った杉林が現れた。「あれは背丈がそろっているから人工林なんです」。大自然を前に説明が続く。
リフトを降りると、ケーブルカーの降車駅に案内された。目の前には高さ25メートルほどのブナの木が迫っている。駅の踊り場がブナの木の高さとほぼ同じため、地上からは決して見られないブナの最上部をじっくり観
察できる。これは貴重らしい。
葉と花のそれぞれに芽があり、赤茶色のうろこの形をしたもので包まれているのが見えた。芽を寒さから守っているという。吉山さんは「駅前ブナ」と名付け、観察を続けている。
シーズンオフのため、すれ違う人の数はそれほど多くない。ただ、スカートにブーツやヒールを履いている女性もいた。標高599メートル、都心から電車で1時間の高尾山。「身近で手軽な登山」を象徴しているような
光景だ。
今度はパトロール中の集団に出会った。道行く登山客とあいさつを交わしている。ミシュランで三つ星を獲得した07年、登山者の急増を背景に「道に迷った」「滑落してけがをした」といった事故通報は43件に上り、04
~06年の平均と比べ倍増した。08年も41件と多いままだった。
高尾署は07年6月、警視庁管内では3隊目となる山岳救助隊を結成した。斉藤正嗣副署長は、低い山だが、登山靴を履く▽山の天気は変わりやすいため雨具やライト、水、地図、非常食を携行する▽救急用の医療薬や
包帯、ばんそうこうを持参する▽事前にコースを下調べする--ことなどを呼びかけている。
高尾山には六つの登山路があり、北側の通称「4号路」を通って山頂を目指した。それにしても静かだ。時折聞こえる沢の音は厳かで、自然に対する畏敬(いけい)の念にかられた。
ふと、吉山さんの声がうわずった。「南北両巨頭の会談ですよ」。ブナとカシが並んでいる。主に南方の暖温帯で生育する常緑樹のカシと、北方の冷温帯の落葉広葉樹であるブナが隣り合うのは珍しいという。高尾山の
緯度や経度、高度がちょうど中間の環境を生んだのだ。
ふもとから約2時間。寄り道しながらも山頂に着いた。残念ながら、07年発売のミシュランが推奨する富士山は春がすみのため見られなかった。帰り際、吉山さんに「次はいつ?」と問われた。間もなく木々が芽吹き、花
が咲き誇る季節を迎える。高尾山の魅力は奥が深い。
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■メモ
◇全国最多、300種類のクモ
動物も多く、ムササビやハクビシン、ホンドリスなどが生息する。クモは日本一多い約300種類が確認されている。年間登山者数は230万~250万人で全国最多を誇る。
山岳信仰の場でもある。中腹にある真言宗智山派の高尾山薬王院有喜寺は、744年に高僧・行基菩薩(ぼさつ)が開山したとされる。本堂の前には朱塗りの鳥居があり、そのそばではお香をたくなど、神祇(じんぎ)信
仰と仏教を折衷した風習が続いている。
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