ID 7120
登録日 2008年 4月10日
タイトル
東京見聞録:樹木医 神庭正則さんに療育学ぶ
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新聞名
毎日新聞
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元URL.
http://mainichi.jp/area/tokyo/news/20080410ddlk13040233000c.html
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元urltop:
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写真:
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東京見聞録:樹木医 神庭正則さんに療育学ぶ /東京
千鳥ケ淵、上野公園と、都心の名所では今年も満開のサクラが楽しめた。元気に花をつける木々を支える職業のひとつに「樹木医」がある。木をチェックし、樹木の病気を治すお医者さんだ。葛飾区に住む神庭(かに
わ)正則さん(54)は樹木医歴17年のベテラン。どうやって木の病気を調べるのか。あきる野市の光厳寺にある老木のヤマザクラ(都の天然記念物)の前で木々にまつわる話を聞いた。【吉永磨美】
◇根と幹、丈夫なら再生
降りしきる雨の中。光厳寺に着くと神庭さんが話し始めた。「3月下旬から、暖かくなってからの雨が植物には大事なんです。春の雨が降って、そして一気に芽吹くんです」
山門の奧に黒い老木のヤマザクラが見えた。両側に堂々と枝が張り出し、幅は20メートルほど、高さも15メートルはある。斜面にどっしりと根を張り、見下ろす姿は神々しい。まだ花をつけ始めたばかりだ。
「2月ごろから根は動いているんです」という。夏に光合成でためたエネルギーを使って、春前から小さな根を地中で少しずつ伸ばし準備しているのだ。
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神庭さんは東京農工大農学部の出身。環境保護学科で天然記念物の樹木の保護について学び、造園会社に就職。樹木の保護や管理に携わってきた。91年に樹木医の資格制度ができて、真っ先に取得した。子供のこ
ろから木で遊び、自然と樹木にかかわる道を選んだ。
これまでに、都内の「練馬白山神社の大ケヤキ」(練馬区)や「根尾谷淡墨桜」(岐阜県本巣市)など、天然記念物も診断し治療してきた。
しゃべりもしない樹木をいったいどうやって的確に診断、治療するのか。
「まずは目で確認ですね。葉の大きさや色、枝の数をチェック。正常かどうかを見る。枝の伸び具合も見る。耳も使う。中が腐って空洞になっていないかは、木づちでたたいて音を聞き分ける。樹皮が浮いていると鈍い
音になり、しっかり育っていると高い音が出るんです」
枯れた枝や幹は電動ノコギリで切り取る。外科手術のようなものだ。
樹木医の資格を取ったころに手がけた国の天然記念物「素桜(すざくら)神社の神代(じんだい)桜」(長野市)が思い出深いという。
枯れ枝が多くなった症状から診断、根が伸び切れないでいる状態を見抜いた。根が十分伸びるよう地形も変えた。木はよみがえった。
◆
神庭さんは、光厳寺のヤマザクラを10年前に初めて診断した。枯れ枝が目立ち弱っていたため、都が造園会社に調査を依頼。そこに神庭さんがいた。「根が傷ついて周りの土が硬くなっていた。植物は根も息をしてい
るんです」。土が硬いと雨水と共に中に入り込んで根に届くはずの空気や水分が入らなくなる。土を耕して軟らかくし、周囲に草も育つようになった。
◆
「あの枝を見てください。色が違うところがあるでしょう」と神庭さんが枝を指した。確かに違う。黒っぽい樹皮の中に、色の薄い茶色の部分がある。腐朽病という病気という。コフキダケというキノコ類が、樹木の傷口から
内部に入り込んで栄養分をとり、木を腐らせる。その部分をノミなどで削り取り、抗菌剤を塗って病気を食い止める。人間の医者と同じだ。
神庭さんが不思議なことを言う。「木は移動できないけれども、身を守る方法を知っている」。木は病気を受け入れて、キノコ類などに自らの組織を提供することがある。病気の組織は捨てて、その周囲に新たな硬い組
織を生み出し、自らの生命を守るのだ。
何たる生命力!
「幹と根が丈夫ならば、木、とりわけサクラは何度も再生する」と神庭さんは説明してくれた。
人間も木も同じ。挫折し、くじけても心と体が丈夫ならまた頑張れるということだ。
老木を見ながら、ふっと元気になった。
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■メモ
◇試験は4~5倍の倍率
樹木医は全国で約1600人、都内では約160人が資格を持つ。年に一度の試験は、4~5倍の倍率だ。試験を実施する「日本緑化センター」(港区)によると、年々人気が高まっているという。
神庭さんは埼玉県熊谷市出身。現在は街路樹や一般の樹木の診断、管理、保護を手がける緑化コンサルタント会社の社長だ。10年前に有志が集まって街路樹の診断方法を作ったこともある。
現在、神庭さんは街路樹診断協会の常任理事も務めており、6月25日に千代田区の日比谷公会堂、同27日に大阪市此花区西九条の「クレオ大阪西」で街路樹の管理や診断に関する国際シンポジウムを開く。問い合わ
せは同協会(03・3454・5520)。
毎日新聞 2008年4月10日 地方版
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