ID 5261
登録日 2007年 11月 7日
タイトル
本当にいけない?白神山地の無断伐採
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新聞名
オーマイニュース
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元URL.
http://www.ohmynews.co.jp/news/20071105/16985
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元urltop:
-リンク切れ-
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写真:
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世界遺産に登録されている白神山地(青森県深浦町)の白神岳(1232メートル)で、つる植物が無断伐採される事件が起きた。
事件の現場となった一帯は、樹木の伐採には知事の許可が必要な国定公園地内で、県では自然公園法違反で告発することを検討しているという。
被害を受けたのは、登山コース沿いのブナなどの木に巻きつく「ツルアジサイ」というつる植物などで、約220本が根元近くから伐採されたり、引き抜かれていたという。
ツルアジサイは、別名ゴトウヅルとも呼ばれる、日本全土に分布する落葉性のつる植物で、主にブナ林や広葉樹林に生育する。つる植物だけに、自力では直立せず、ブナなどの樹木に巻きついて成長し、6、7月頃に
は名前の通り、アジサイに似た花を咲かせ、秋には黄色や赤色に紅葉する。
白神山地は現在、紅葉シーズンも終わりに近づいているが、例年、紅葉した色鮮やかなツルアジサイが、登山客の目を楽しませていただけに、この蛮行は関係者を困惑させている。
今回の無断伐採では、巻きつかれたブナ本体にも傷つけられたものもあったが、あくまでそれは、ツルアジサイを切る時についた傷だと思われる。
つまり、犯人はツルアジサイなどのつる植物だけを狙ったのである。だとすれば、この行為は何を意味するのであろうか。
私の家の敷地にも、ツルアジサイが自生していた。牛舎の傍らにそびえる幹周り3メートルにもなる大きな広葉樹があるが、根元からツルアジサイが、この巨木の幹や枝という枝に至るまで、締め付けるように巻きつい
ている。
この木には、ツルアジサイの他にテイカカズラという、同様のつる植物が巻きついている。これらは、幹や枝に巻きつく時、ツルから気根という根を幹や枝に食い込ませ、養分や水分を吸い取っている。
そのため、寄生された木は、年々、枝や葉の数を減らし、樹勢が弱くなってきている。中には、枝の先まで巻きつかれて衰弱し、途中から枯死して折れた枝もある。
子供の時からこの木を見て育っただけに、次第に弱っていく木の姿を見るのは辛く、そこで、この木を守るため、ツルアジサイを根元から伐採しようとしたことがあった。でも、幹や枝に食い込んだツルアジサイだけに、
途中から切断しても気根の力で生き延びるのではないか、という不安もあった。
また一方で、この結果が良ければ、残りのテイラカズラも切断をしようという淡い期待感もあって、結局、切断は実行されることになった。
切断後は、結果に対する不安と期待が交錯していたが、しばらくして、その結果が出た。ツルアジサイは次第に生気を失い枯死したのである。
テイカカズラが、巨木を締め付けるように上に伸びていく。気根と呼ばれる根が、幹や枝を蝕んで樹勢は衰えていく一方だ (撮影:藤原 文隆)
結果が実証されたのだから、残るはもう片方のテイラカズラである。だが、新たな問題が浮上した。このテイカカズラは、根元の幹廻りがペットボトル大の太さで、「ツル」というより、「木」といってもおかしくないほどの
生育ぶりなのである。私の頭には、木を無分別に切るものではないという親からの教えや迷信もあって、今現在まで切断は実行されてはいない。
今回の白神山の無断伐採は、法律に違反していることは間違いない。ただ、今回の事件と、私の体験したことを照らし合わせると、ブナ本体には傷をつけず、つる植物だけを狙ったこの行為は、ブナがつる植物に寄生
されて樹勢を弱めていくことに危機感を持った者が、ブナを守るため、やむにやまれぬ気持ちで下した決断ではないかと考える。
無論、生命を持つ植物に、樹木とつる植物に差別があるはずもなく、ブナがつる植物に優先する道理はない。植物は自然のままに任せる方が「生物多様性」の法則に適うものかもしれないが、人間のエゴと思われるこの
行為を、杓子定規に断罪する気持ちにはなれない。
自然保護とは何かを、改めて考えさせる事件であった..