ID　3063

登録日　2007年 3月15日

タイトル

新風景画家、関西で台頭ビルや樹木をモチーフに、

新聞名

日経ネット関西版

元URL.

http://www.nikkei.co.jp/kansai/culture/38906.html

元urltop:

写真:

　

自然の美しさをありのままに描写した絵画――。そうした既存の風景画のイメージを打ち破る若手アーティストが関西で台頭している。「新風景画家」とでも呼ぶべき彼らが関心を持っているのは、郷土色でも なければ自然の崇高さでもない。自然、人工を問わず、身の回りにひそむ形そのものだ。ユニークな創作の背景を探ってみた。
　神戸市の人工島、六甲アイランドの対岸には数々の倉庫や工場が並んでいる。円筒、直方体、縦横に走るパイプの直線と曲線。同市在住のアーティスト、泉依里は新交通システムの窓越しに心奪われる形に出合うと、 カメラを取り出しシャッターを切る。彼女にとっては、形を探すことが制作の第1歩だ。
　泉が集めてくるモチーフは「シャープではなく、もっちゃりしたもの」ばかり。写真を基に、「面白い形」のドローイングを繰り返し、原形をとどめないほど崩していく。それらをパソコンの画面上で組み合わせ、色を決める 。これはあくまでも下絵。形と色の響きに十分納得してから筆を執り、油彩画を制作する。
　例えば、合板に油彩で描いた「アゼヌリキＵＺ」（2006年）。中央左側、垂直に伸びる鮮やかな黄色の帯は教会の塔だ。その真ん中あたり、白く抜いているのは窓。そして教会の塔にからんでいるのは農業機械である。
デッサンした「あぜ塗り機」の本体は真っ赤だったが、意味をなくすためあえて水色にした。
　「高層ビルを見上げたときなど、何を見ているのかさっぱり分からずクラッとするけど気持ちいいと感じることがある」。泉の風景画はそんな瞬間を再現しようとした作品だ。
　ときには、たった1つの形をつくるのに数年かかることもあって、その制作は決して楽ではない。未知の世界を探るように形を崩し「何とか有機的と感じられる限界で止める」のが腕の見せどころである。
中岡真珠美と近作の「Ｄｒｉｐ」（大阪市中央区のアトリエで） 　一方、中岡真珠美（大阪府吹田市在住）が集めるのはクールなモチーフ。街路樹、ビル、高速道路……。写真を基にドローイングを重ねるのは泉と同じだが、モチーフの組み合わせはしない。カンバスに主にアクリル絵 の具で描いたシンプルな作品は清楚（せいそ）な印象を与える。
　基調色のピンクが強烈な「Ｄｒｉｐ」（2006年）はその典型だ。よく見ると、白地に白で木の幹や枝が描かれている。画面中央やや左上、いくつかのピンクの丸っこい形は葉。その上の同じくピンクのにじんだ円は木漏れ日。
何を描いたのかまったく分からないというほどではなく、画家が解釈した風景が広がる。
　中岡によると「ある日突然、見慣れた場所がめっちゃかっこいいと思えることがある」。まだ作品には至っていないが、自宅近くで目にした「木の影が車庫に映った光景」もその1つ。こうした場面の写真がアトリエにため られ、絵画のモチーフに生まれ変わるのを待っている。これらを自分の中で反すうし洗練された形として取り出すのが創作の醍醐味（だいごみ）だ。
　15日、上野の森美術館（東京）で始まった若手対象の「ＶＯＣＡ展２００７」に、中岡は新作2点を出品している。
　同じ場所であっても、風景の見え方は人それぞれで違う。今まで気にとめなかった風景でも、時がたてば美しいと認識されることもある。光や大気を描こうとしたモネと同じく、現代のアーティストも新しい風景の発見に 挑んでいるといえる。
　関西ではほかに、具象画と抽象画の中間を模索する中川トラヲ、日常の風景を意外な視点からとらえる田中栄子らがいる。それぞれ個性があり、ひとくくりにはできないが、風景を主題に斬新な制作を続けているのが 興味深い..

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