v10.0
- ID:
- 37285
- 年:
- 2017
- 月日:
- 0116
- 見出し:
- <近江と人と>伝統と現代アート融合
- 新聞名:
- 読売新聞
- 元URL:
- http://www.yomiuri.co.jp/local/shiga/news/20170115-OYTNT50132.html
- 写真:
- 【写真】
- 記事
- 木桶職人 中川 周士さん48 楕円だえん形に膨らみ、両端でシャープに閉じる口縁に、洋酒ボトルがゆったりともたれる。この桶はシャンパンクーラー「Konoha」。高級品として知られるドン・ペリニヨンの醸造最高責任者が「デザイン、技術、伝統の素晴らしい融合だ」と公認クーラーの希望を申し出たほどだ。伝統工芸と現代アートが織りなす一つの到達点でもある
京都の桶職人の三代目に生まれ、工房を遊び場に育った。「伝統工芸から感じた古くささや、親の敷いたレールに乗ることへの反発心」から、京都精華大の造形学科に進学。現代アートに没頭し、鉄を素材とした作品をいくつも作った
卒業後は、すんなりと家業に入った。もの作りの楽しさを感じるようになったからだ。修業に励みつつも、週末は別の工房で創作活動。父は「木工に専念しろ」と言ったが、現代アートの道を捨てることはなかった
1998年の京都美術工芸展で出品作が大賞に。翌年、その選抜展が開催された際、珍しく会場を訪れた父が「お前が二足のわらじでやっていくのを理解した」と言い、以来、口は出さなくなった。2003年に大津市に木工工房を構え、独立した
◎ 時代は、生活に木工を求めなくなっていた。風呂桶も、すし桶もプラスチック製。おひつなら、祖父の頃と比べ注文は10分の1以下だ。焦りを感じていた時に舞い込んだのが、シャンパンクーラーの制作だった
「シャープな木桶」を念頭に、現代的な外見を追求しながら、木片をたがで締め付ける「指物」の風格は崩せない。2年間、試行錯誤し、鋭い口縁と、側面に優美な丸みを持つデザインを考案。素材のコウヤマキは保温性に優れ結露しにくく、高貴な雰囲気と爽やかな香りを漂わせる。育んできた二つの価値観が、自分の中で溶け合った
◇海外で個展開く 近年は、世界に向けて様々な作品を発表。14年にニューヨークでグループ展、15年にパリで個展を開いた。デンマークのデザイナーと協力して作ったイス「ki―oke stool」は、同年に英ビクトリア・アンド・アルバート美術館の永久収蔵品に。伝統工芸と家電を組み合わせた製品作りにも挑む。「現代アートの夢だった海外での個展を、まさか伝統工芸を通じて実現できるとは」 かつて自分が手がけたアートが、子どもの頃に工房で見た「洞うろ」の空いた丸太や、丸まって床に転がるかんなくずと重なることに気付いた。「制作者の中の原風景が作品に反映する。自分には、それが桶作りの現場だったのでしょう」。歩んできた二つの道の源は、心の中で深く結びついていた
..