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すべて読み終えた後には、すっかり騙されていた!と悔しい思いとともに本を閉じることになるだろう。そうして表紙を見返したとき、あなたはこのタイトルの本当の意味に気づかされることになる。かなり分厚い本だが、分量を全く感じさせず、一見すると無関係に見える脇の筋も楽しく読める。大満足の一冊となること請け合いである
あなたの心の「桜」を咲かせる短編集古典(というか、少し前の刊行作品)が続いてしまった。というわけで、最近の本も紹介しよう。『桜の下で待っている』(彩瀬まる・著/実業之日本社・刊)である。人の心を深く捉えた『くちなし』が直木賞ノミネートするなどこれからの活躍が大いに期待される著者の短編集で、震災を経た東北を遠景に、遅くやって来た春の景色と主人公の思いがほどける瞬間を瑞々しく切り取っている
本書の魅力は、人の心を切り分けて提示する鋭い筆力と、登場人物を包み込むような優しさが同居していることだ。人は普段、心の奥底にきしみを覚えながらもその痛みから目を背けて生きている。本書の著者は見逃してしまうような小さな痛みすらもその筆で感知して抉り出す。だが、それと同時に傷つき疲れている魂を浄化してくれる。遅い春がやってくる東北の風景、各短編の主人公の魂が少し救われた瞬間に訪れるほのかな温かさ。この絶妙な筆運びが本書の核であり、美点である
新しい季節特有の切ない日々にこそ読んでほしい。あなたの心の中の桜の木も、きっと満開の花を咲かせることであろう
「桜」の紀章の下で働く者たちの苦悩と矜持さて、最後は新刊から
桜は我々にとって身近な花であるがゆえに潔さの象徴となったり、学校や企業などのトレードマークとしても用いられるようになった。行政機関においても同様である。桜をトレードマークにしている行政組織といえば、そう、自衛隊である
『桜と日章』(神家正成・著/宝島社・刊)は、これまで二作に渡り自衛隊を材に取りミステリを描いてきた著者による長編第三弾である。だが、今回、著者は新たな挑戦に挑んだ。自衛隊と警察の軋轢を描いたのである
この驚きは、あるいは作家にしかご理解いただけないものかもしれない。警察ものは特に専門性が高いとされており、ミステリ作家といえどもうかつに手を出すことができないジャンルであると了解されているのである
本書は千葉県警の警備部長が誘拐されるところからスタートする。この誘拐事件に自衛官が関与している可能性が判明したあたりから、様相は警察と自衛隊との対立と腹の探り合い、メンツ争いになってゆく。と書くと何やら小難しい印象を受けるかもしれないが、警察に出向している自衛官でありオネエ口調がトレードマークの植木が、わたしたち読者にとって納得できる目的意識で作品内を動き回っている、つまりは共感性を担保してくれるため、普段警察ものになじみがない人でもストレスなく読むことができるだろう(ちなみにわたしも警察ものはそこまで読み慣れていないが、楽しく拝読した)
桜の紀章の下で働く者たちの苦悩と矜持をうかがうことができる一作である
桜の花は古来より春のイコンであった
わたしたち一人ひとりが日本文化の衣鉢を継ぎ続ける限り、桜はずっと春の晴れがましい季節を告げる花として愛されてゆくのだろう。今日紹介した本はいずれも、そんな桜の魔力――言い換えるなら文化的な文脈――によって誕生したものたちなのかもしれない
【プロフィール】谷津矢車(やつ・やぐるま)1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新作「奇説 無残絵条々」(文藝春秋)が絶賛発売中
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