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- ID:
- 35205
- 年:
- 2016
- 月日:
- 0402
- 見出し:
- 桜と若人
- 新聞名:
- 中日新聞
- 元URL:
- http://www.chunichi.co.jp/article/column/desk/CK2016040202000121.html
- 写真:
- なし
- 記事
- 四月、多くの若者が親元や故郷を離れ、学校や職場には新しい顔が並びます
こんな節目を桜が彩ってくれます。その花の下で、遠くへ行く友や、新しく出会った仲間たちと記念の写真を撮る人もいることでしょう
思い起こすのは昨年亡くなった作家阿川弘之さんの『雲の墓標』です。戦時、特攻隊員となった学徒士官の日誌を基にした作品。主人公の隊員は手記の形で、先に出撃する仲間をこう書きました
「本日快晴。隊内の桜がちょうど満開である。わかれの盃(さかずき)に頬をほてらせて、桜の木のしたで写真をうつしてもらっているのが、みな花やいで見える」「誰も彼も若く、ほんとうに若さにかがやいている感じがする」 翌日にも別の仲間が出撃し、その様子をこう記します
「『それではちょっくら先に行って来ます』と言い、それから、『また来る春の桜は、平和な日本に咲かしてえよ、まったく』とおどけていた。おどけて言うよりしようのない気持(きもち)であったろうとおもった」 そのころ、内閣は総辞職しました。主人公は、国を危機に追い込んだ政治家たちの無策と無責任を憤り、戦死した仲間たちを「あまりに可哀(かわい)そうだ」と悼みます。隊員たちと同世代である阿川さんの思いでもあったのでしょう
若人が特攻機で次々飛び立って一年後にまた来た春の桜は、願い通り、平和な日本に咲きました。以来七十年、あまたの命を礎に安らかな桜が咲き続け、さまざまな門出を祝しています
今の若い人にも覚えておいてもらいたい歴史です。そして若者に犠牲を強いる時代など二度とあってはいけない。為政者の胸に刻んでおいてほしい教訓です
(名古屋本社編集局長・臼田信行)
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