v10.0
- ID:
- 41989
- 年:
- 2018
- 月日:
- 0703
- 見出し:
- 糸魚川・スギ、ブナ林 森の巨木、アートに見立て 県と市が初 人と自然の関係学ぶ
- 新聞名:
- 毎日新聞
- 元URL:
- https://mainichi.jp/articles/20180704/ddl/k15/040/164000c
- 写真:
- なし
- 記事
- 県の最南端、糸魚川市大所にある伐採で変形した天然の杉やブナを観察する初のツアーが開かれた。県や市などによる実行委員会が主催したもので、参加した11人はアート作品を思わせる木々の形状に感嘆し、人と森との深い関わりに思いをはせた。【浅見茂晴】 長野県小谷村と県境を接する大所の歴史は江戸時代に始まった。寛政4(1792)年、白木のおわん(木地)を作る職人たちが飛騨(岐阜県)から移住。職人たちは糸魚川市や妙高市などを転々とした後、天保8(1837)年に大所に戻り、集落を形成した。その子孫たちが漆塗りの技術も導入し、太平洋戦争の終戦直後ごろまで金蒔絵(まきえ)の漆器わんを作っていた
この職人集落を支えたのが、周辺に広がる杉やブナの天然林だった。漆器わんが作られなくなってからも、昭和30年代まで、杉は建材、ブナは燃料のまきとして集落を支え、杉で建てられた家屋は今も集落に残っている
大所は山が深く、林道が整備されたのは高度経済成長期に入ってから。それまでは雪が溶け出す前の春先に伐採し、そりで集落へと運んでいた。残雪が1、2メートルもある時期だったため、伐採できたのは幹の一部。残る幹から芽が生えて成長し、それをまた伐採するという行為が繰り返された結果、ユニークな形の木々が多く残った
地元では、そんな杉を、台形を逆さにしたような形にちなんで「台杉」、ブナを「アガリコ」と呼んでいる
杉やブナの天然林は県内各地にあるものの、人々に利用され、その面影を今も残す例は大所以外にない
◇ ◇ この貴重な木々と集落の歴史を知ってもらおうと、地元住民や県、市などが実行委員会を組織してツアーを企画。作業道が整備されている天池周辺に群生する約25本のスギ・ブナ林を歩いて回る約3時間のコースを整備し、6月23日、初のツアーにこぎ着けた
記者もツアーに同行した。ブナ林に入るとさわやかな風が心地よく、まさに森林浴。ブナ林は落ち葉が地面に重なり、ふかふかのスポンジ状になっている。1時間に300ミリの集中豪雨があっても保水能力があることから、「緑のダム」とも呼ばれると、地元のきらら自然の会やジオパークガイドたちが教えてくれた。ふかふかの大地を約30センチ形成するのに6000年もの年月がかかるという
熊の爪痕が残る木々の間を進んでいくと、台杉やアガリコが姿を見せた。枝が背を反らしているように見える木には「イナバウアー」、切り立つ岩を抱えるように生えている木には「根性スギ」など、ガイドはいくつかの木々に名前をつけていた。「なぜこんな形になったのだろう」と考えながら一本一本を眺めていると、予定の3時間はあっという間に過ぎてしまった
主催団体の一つ、県糸魚川振興局の野神直人・地域振興課長は「糸魚川市内でも知られていないアガリコや台杉が広がる森の魅力などをもっと伝えていきたい」と話した
ツアーは9月9日、10月13日にも開催する予定だという
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