v10.0
- ID:
- 27027
- 年度:
- 2013
- 月日:
- 0305
- 見出し:
- 心打つ 孤高の一本桜
- 新聞名:
- 読売新聞
- 元URL:
- http://kyushu.yomiuri.co.jp/magazine/life/20130304-OYS8T00271.htm
- 写真・動画など:
- なし
- 記事内容
- 桜並木もいいが、1本のたたずまいで人を魅了する桜もある。開花の知らせが待ち遠しいこの季節、ひと足先に九州・山口にある桜の巨樹や名木を訪ねた。
九州・山口の桜 開花待つ
2月下旬、鹿児島県伊佐市を訪れた。目当ては、十曽じっそ渓谷のエドヒガンザクラ。国有林の林道で車を降り、落ち葉を踏みしめて急な山道を約10分登ると、高さ28メートルの巨木が現れた。国内最大級の桜の古木とされる。根元は人の背丈より大きく隆起していて、人を拒むような迫力に圧倒された。
「これほどいかめしい木なのに、花が咲くと優しげで控えめな感じになります」。案内してくれた市地域振興課の柿木伸一さん(39)が、木を見上げながら話した。
幹はコケに覆われている。枝は頭上に伸び、高すぎてつぼみの有無もよく見えない。樹齢600年と推定され、1977年に営林署(現森林管理署)の職員が発見した。2000年には林野庁が選定した「森の巨人たち百選」に選ばれた。
根元は二股に分かれていて、以前はイノシシがすみ着いていたそうだ。巨体の割に花は小さく、色は白っぽい。見頃は3月下旬から4月上旬で、根元から見上げたり、木の周辺に整備された遊歩道から眺めたりして楽しむ。
花が多く咲く年と、少ない年があるそうだ。ほぼ1年ごとに変わるため、昨年はあまり咲かない年だと思われていたが、実際にはたくさんの花が咲いたという。神秘的な老木の花を見てみたくなった。
逸話を知り 一層味わい
筑後平野を見渡すように立っている「天保古山の平家一本桜」(福岡県みやま市で)
名木にまつわる話を知ると、花見も一層味わい深いものになりそうだ。
福岡県みやま市には、壇ノ浦の戦いで敗れた平家の残党が最後の戦いを演じたという伝承が残る。その古戦場とされる要川を見下ろす山の頂付近に、ぽつんと1本、ヤマザクラの古木が立っていた。地元では天保古てんぽこ山の平家一本桜と呼んで大切に守っている。
同行してくれたのは、市商工観光課の松尾剛さん(40)。「以前は桜の周りに雑木が茂っていたが、眺めやすいようにと地元の人たちが手入れをしてくれた」と説明した。樹齢は推定250年。桜の木のそばに立って辺りを見渡すと、西側には筑後平野が開け、遠く有明海も望める。北東側は「平家谷」と呼ば
れる谷間だ。
平家谷には、一本桜ほど古くはないが見事な花を咲かせる大木が4本あり、「平家五大山桜」と総称しているという。
谷の反対側にある山から、一本桜を眺めてみた。枝を広げる孤高の立ち姿はどこかもの悲しい。花の見頃は4月上旬。満開の桜が散る風景を、平家一族の栄枯盛衰と重ねて眺めれば、また趣もひとしおだろうと、立ち去りがたく感じた。
◎
佐賀県唐津市の名護屋城跡北側にある法光寺では、太閤お手植え桜と呼ばれる八重桜が有名だ。寺は元々、名護屋城南側の街道沿いにあったが、朝鮮出兵の際に豊臣秀吉が「戦に行く途中に寺があっては不吉だ」と言ったことから現在の場所に移ったとされる。秀吉はわびとして、武将の伊達政宗に命
じて宮城県塩釜市から取り寄せさせ、自ら植えたと伝えられている。
樹齢約420年。一時期は病害虫のために木が弱ったり、台風で幹の一部が折れたりしたが、樹木医らの世話で回復しつつある。住職の綾部繁泰さん(63)は毎朝枝を握って「頑張れよ」と声を掛けているという。見頃は4月上旬から中旬。
華やか「八重桜」
大村神社境内にあるオオムラザクラ(大村市教委提供)
花弁が10枚を超えるような桜は「八重桜」と呼ばれ、一重咲きとは違った華やかさが楽しめる。
中でも長崎県大村市の大村神社にある2本のオオムラザクラは、ピンクの花弁が少ないものでも60枚、多いものは200枚。花の内側にもう一つ花がある「二段咲き」という変わった構造で、国天然記念物に指定されている。
見頃は4月上旬から中旬で、青々とした葉も同時に茂るのが特徴だ。豪華な枝ぶりを楽しもうと、毎年大勢の人が訪れる。市の花として愛され、花をモチーフにした市のマスコットキャラクター「おむらんちゃん」のお菓子やグッズも登場している。
◎
山口市小郡地区(旧小郡町)には、地名を冠した珍しいオゴオリザクラがある。花弁は15枚前後で、見頃は3月下旬から4月上旬。市教委によると、八重咲きをする桜はめしべが不完全で実がならないものが多いが、オゴオリザクラは少ないながら実がなる。
樹齢200年と推定される巨木が1本あり、市天然記念物に指定されている。地元ではこの木を原木にして、市内の公共施設などで増やし、大切に育てている。
◇連絡先
十曽渓谷のエドヒガンザクラ(伊佐市地域振興課) 0995・23・1311
天保古山の平家一本桜(みやま市商工観光課) 0944・64・1523
◆各地の桜まつり
▽オゴオリザクラまつり 4月6日、メーン会場は山口市の小郡地域交流センター付近。(電)おごおり地域づくり協議会(083・976・8588)
※開花状況は山口市教委文化財保護課=083・920・4111へ。
▽太閤お手植え桜の桜まつり 4月7日、佐賀県唐津市の法光寺境内。(電)同寺(0955・82・1527)
▽大村桜まつり 4月7日、長崎県大村市の大村公園。(電)大村市観光コンベンション協会(0957・52・3605) ▽南阿蘇桜さくら植木まつり 樹齢約400年とされる熊本県南阿蘇村の「一心行いっしんぎょうの大桜」が有名。3月23日~4月7日、一心行公園。(開催時期は開花状況による変更あり)。3月上旬に桜情報テレホンサービス(0967・67・3321)が開設される。
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