v10.0
- ID:
- 31586
- 年度:
- 2014
- 月日:
- 1020
- 見出し:
- 海岸防砂林どう守り継ぐ?/根ほり葉ほり
- 新聞名:
- 朝日新聞
- 元URL:
- http://www.asahi.com/articles/CMTW1410200600001.html
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- ◆ 山形大農学部教授 野堀 嘉裕さん(63)
庄内平野を強風と飛砂から守ってきた全国屈指の海岸林「庄内海岸砂防林」=キーワード=が危うい、と山形大農学部の野堀嘉裕教授(63)が警鐘を鳴らしている。若いクロマツが少なく、少子高齢化が進む日本と同じ構造なのだという。
◆ 若いマツ育て「高齢化」抑制
――庄内海岸の砂防林は非常に立派に見えます。
確かにそう見えますが、非常に危うい状態です。先人たちが18世紀から植林に取り組み、いまの砂防林をつくってきた。遊佐町には林齢が200年を超えるクロマツ林があり、酒田市の光ケ丘には100年を超えるクロマツの森がたくさん残る。問題なのは、この30年近く、ほとんど植林されておらず、若い世代
が抜け落ちているということです。日本の人口構成と同じで、22世紀を担うクロマツが育っていないのです。
◆ 「安定」が問題
――この30年、なぜ植林しなかったのでしょうか?
海岸林の矛盾です。スギであれば大木になったら伐採して、そこに次の世代が植えられる。けれども、クロマツ林の場合は、大きく育っても砂防の機能を維持している限り、切る必要がないと思われてきた。
3キロ幅の砂防林のうち海側の1キロは国有林として戦後、精力的に植林された。内陸側は民有林で2キロ幅ほどある。国有林より林齢が古く、大きなクロマツが飛砂を安定して防いでいるため、一部が開発され農地になっている。砂防林は安定している、と見えていることが問題なのです。
――どうすべきだと考えていますか。
クロマツは「陽樹」と言って日差しを要求する木です。松枯れなどで1本枯れたら、周りも5~10本伐採して若いクロマツを育てる団地をつくる。そういう団地を50~70年生の林に帯状につくり、内陸側から海側に向かって砂防林を順次若返らせていくことが必要です。国内では北海道だけですが、この手法でク
ロマツ林を更新しています。
ただ、民有林は所有者が大勢います。県が砂防林を更新しようと考えても、同意手続きを得るだけで大変です。だれの所有かわからない土地もあって、更新したくても手を付けられない状況にあるのです。
◆ ショウロ活用
――美味のキノコ「ショウロ」を若いクロマツ林で育てる提案をしています。
ショウロはクロマツを植林した若い林にでる。マツタケのような高級食材として売り物になれば、「クロマツ林を更新するのも悪くない」と変わっていくのではないかと考えました。
山形大の院生時代のことですが、安部公房の小説「砂の女」の映画のロケで酒田市浜中に建てられた家を見たことがあります。屋根まで砂で埋まっていました。飛砂はすごい。その飛砂から暮らしを守るため、先人たちは18世紀から植林に取り組み、いまのクロマツ林をつくってきた。我々はその恩恵を受け
て21世紀を生きている。だから、我々には22世紀を考える必要があるのです。(伊東大治)
のぼり・よしひろ 1951年、東京都生まれ、農学博士。県森林審議会長。木の年輪から遺伝的要素や過去の地域環境を読み取る森林情報学が専門。
◆ キーワード
庄内海岸砂防林 全国屈指のクロマツ人工林で「日本の白砂青松100選」にも選ばれた。長さ33キロ(遊佐町吹浦~鶴岡市湯野浜)、幅1・5~3キロ、面積約2500ヘクタールに及ぶ。元々あった自然林が戦国時代の戦乱などで荒廃。飛砂に苦しめられた人々が18世紀から植林に取り組んだ。
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