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- ID:
- 31559
- 年度:
- 2014
- 月日:
- 1016
- 見出し:
- 育ちの違う「エリート」がそろう、盆栽専門美術館
- 新聞名:
- asahi.com
- 元URL:
- http://www.asahi.com/and_M/interest/SDI2014101475801.html
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
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古来、日本人は盆栽に大自然を感じてきた。フォトギャラリーはこちら。
「日本人は繊細ですね、1本の木を500年手入れしているなんて。まるでおじいちゃんを介護しているみたい」。さいたま市大宮盆栽美術館で初めて日本の盆栽を目にした台湾人女性が、冗談交じりに言う。介護を受ける老人に見立てられた盆栽――。いやいや、これがなかなか鍛え抜かれているのだ。
大宮盆栽美術館
五葉松 銘「千代の松」
大宮盆栽美術館
常に40~50点が展示されている庭園
欧米を中心に外国人も多く訪れるさいたま市大宮盆栽美術館は、盆栽職人が集まる「大宮盆栽村」に根付いた盆栽文化を普及するため、2010年に開館した。所蔵している盆栽は113点で、その大半は故・高木禮二さんのコレクション。事務機器メーカー「明光商会」の創業者である高木さんは希代の盆
栽コレクターでもあり、吉田茂元首相ら著名人のものなど約800点を所有していた。その維持管理を大宮の職人が請け負っていたことが縁で、高木さんの死後、時価21億ともいわれた盆栽を5億円で譲り受けたのだった。
高木さんのコレクションはその来歴が確かなのはもちろんのこと、厳しい条件下で育てられたことで知られている。自然にもまれて成長した木の幹が、日光や水を求めてダイナミックにうねるように、限られた土と水しか与えられなかった高木さんの盆栽はその生命力を存分に発揮している。土をしっかりつかむよう
に盛り上がった根、一部が枯れて白くなってもなお生き続ける幹、深いしわが刻まれた荒々しい木肌。「厳しさを知っていると育ちが違う。それは人間にも通じることかもしれません」と同館学芸員の石田留美子さんは話す。
「一盆一樹」のシンプルな芸術。1300年代に中国から伝わって以来、人々が盆栽に見てきたのはほかでもない大自然だ。盆栽を下から見上げれば、あたかも自分がその下に座っているかのような大木を。朝日が描かれた軸と一緒に飾れば、朝日に向かって続く散歩道を。一筋の白い結晶が浮かんだ石
を見つければ、盆栽と一緒に飾って、そこに岸壁から流れ落ちる滝を見た。
大宮盆栽美術館
盆栽に関する資料や座敷飾りを展示する
そういった想像力を膨らませて楽しむ点でも、盆栽はまさに「アート」といえる。今やイタリアやフランスに独自の学校ができるなど、世界にまで広がるBONSAI人気について、石田さんは「近年は特に現代アートの愛好者にも親しまれているから」と言う。「現代アートが好きな人は盆栽を『リビングアート(生きてい
る芸術品)』としてとらえています。しかも外国人には盆栽は高齢者が楽しむもの、というイメージがないので日本人とは違う切り口から入っていけるし受け入れやすいのではないでしょうか」
伝統から解放して盆栽を現代アートとしてとらえたなら、もう少し肩の力を抜いて向き合えるかもしれない。木の精巧なミニチュアとして見てもいいし、磨き抜かれた生命力にただただ驚いてもいい。もちろん、そこに鍛え抜かれたおじいちゃんの姿を見ても。
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