v10.0
- ID:
- 31562
- 年度:
- 2014
- 月日:
- 1016
- 見出し:
- “子どもの個性を許せない”親たち 現代の子育ての問題点をえぐる絵本
- 新聞名:
- ITmedia eBook USER
- 元URL:
- http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1410/16/news062.html
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- あなたは、人と人は分かり合い、肯定しあえると思うでしょうか? 他人を許し、その存在を受け入れることはできるでしょうか?
“子どもの個性を許せない”親たち 現代の子育ての問題点を抉る絵本
“子どもの個性を許せない”親たち 現代の子育ての問題点を抉る絵本
わたしはこの問いにぶつかったときに、「できない」という結論に至りました。自分にはエゴがあり、相手にもエゴがある。エゴ同士がぶつかれば、そこに衝突が起きる。「自分だけのことを考えて」も「相手のことだけを考えて」も、ゆがみは起こります。この質問をほかの人にぶつけてみても、「他人は何を考えている
か分からないから、できない」(30代男性)、「その人によるかもしれないけれど、許せない人もいる」(20代女性)といった意見が返ってきました。
『杉の木の両親と松の木の子ども』(弦本將裕/原作、つがねちかこ/絵、福田房仙/書、株式会社しちだ・教育研究所/刊)は、わたしがこの問いを考えるきっかけになった絵本です。
杉の木の夫婦の間に生まれた、松の木の子ども。真っすぐに伸びていく杉の木に対して、松の木は横に枝を伸ばします。
「うちの子って何か変だと思わない?」
「このままじゃ、この子のためにならない」
そして、杉の木の両親は、寝ている松の木の子どもの枝を切ります。
「何でこんなことをするの?」
「これはお前のためなんだよ」
枝を切られた松の木の子どもは、「成長の芽」や「可能性の芽」も刈り取られ、個性を否定されてふさぎこんでしまいます。しかし、成長していっても松の木は松の木。杉の木ではありません。
お父さんとお母さんは、松の木の子どもを病院に連れて行きます。最初にかかった松の木の医者は「この子は素直でとてもいい子。このまま、のびのびと育ててあげてください」とアドバイスしますが、杉の木の両親は「この医者はヤブ医者だわ!」といって病院を転々とします。
そして、物語は衝撃的な結末へと向かっていくのです。
このストーリーを作った弦本將裕さんは、「個性」をテーマに心理学を実践し、『動物キャラナビ』といった動物占いの本も執筆されています。
弦本さんはこの絵本を通して、現代の親子関係の問題点を洗い出そうとしています。自分たちの価値観を子どもに押しつけてしまう親たち、その価値観を必死に受け入れようとしても、どうしても受け入れられずに、自分の中にひきこもってしまう子どもたち。
子育て中のお母さん方の話を聞くと、わが子でありながら理解できないとか、特定の子をえこひいきしてしまうという方が多くて、親子の関係がとても難しくなっているのを強く感じました。人間は、自分と異なる個性を受け入れるのは容易ではありません。それは価値観が違うから。そこで、杉の木と松の木というま
ったく異なる性質を持つ木に置き換えることで、個性の違いを訴えたかったのです
弦本さんはこの物語をつくった理由についてそう答えます。親子といえども、一心同体ではありません。別の存在であり、個性も価値観も異なります。でも、親子関係においては、親が強く、子は弱い存在。子は親の言うことに従わなければ生きてはいけません。
『杉の木の両親と松の木の子ども』はとても分かりやすいストーリーです。だからこそ、自分事として物語のテーマの重大さを受けとどめることができるはずです。
弦本さんは次のように警鐘を鳴らします。
自分と異なるモノ……風貌だったり考え方だったりいろいろですが、それを受け入れるのは容易ではありません。個性を考える時に、『みんな自分と同じように考えるはずだ』という間違った固定観念が『否定』を生むのです。自分と他人は違うのだという前提に立たないと、コミュニケーションは成立しません
どんな関係であれ「他者」は自分とは違う。それは、どの場面でも念頭に置かなければいけないことですが、こと子育てにおいては大事なことなのではないでしょうか。
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