v10.0
- ID:
- 31546
- 年度:
- 2014
- 月日:
- 1014
- 見出し:
- 提唱・林床純収益説
- 新聞名:
- BLOGOS
- 元URL:
- http://blogos.com/article/96531/
- 写真・動画など:
- なし
- 記事内容
- 林政学の世界に、土地純収益説と森林純収益説という二つの学説がある。
ようするに、林業を行う際の考え方なのだが、これらを上手く説明するのは難しい。そもそも私も、完全に理解していないかもしれない。
にもかかわらず、ちょうど明日発売になる『森と日本人の1500年』(平凡社新書)で紹介したのだが、極めて簡単に端折りながら文脈に載せて書いたので、多分、専門の研究者が読んだら「違うだろ!」と怒るはずだ(笑)。
まあ、それでもさらに端折りながら思い切り大雑把に説明すると
「土地純収益説」は、林地を資本として、その上に植林(投資)して育て、伐採する際の収益を計算する考え方。
「森林純収益説」は、森林を資本として森林が生み出すものを収益とする考え方。
両者は長い間論争を繰り返してきた。が、私に言わせれば、どちらも古臭い学説だね(-_-)。なんたって、収益を木材に依存する考え方が古い。しかも収益を得るまで時間が長すぎ。それでは経営の範疇からはみ出してしまう。所詮は前世紀、いや前々世紀の学説だ。
※また、お怒りの声がこだまするだろうなあ(⌒ー⌒)。
が、ここで私は考えたのだ。不動産としての土地、あるいはその上に生えている樹木の群=森林だけを資本に見立て、価値を見出すから無理があるのだ。
その間にある林床空間、さらには土壌にも価値があるではないか。
そもそも樹木の苗を植えて収穫するまでの期間は、あまりに人間的に長すぎて、収益として利回りを考えるには無理がある。そんなものは、おまけのボーナスに見立てたらよい。
森林の価値は、林床にあり。
林業経営は、林床で行うのである。生産・収益の舞台を主に林床と考えることで、発想を一新する。すると、まったく新たな経営が可能になるはずだ。
生産としては林床の方が広くて、手をかけやすく、栽培から収穫までの周期が短い。経営上は絶対に有利である。そのように考えた方が、経済活動に向いているのではないか。
そこで提唱する。「林床純収益説」を。林床に生える草本もしくは低木、さらに土壌に価値を置いて経営するのである。
経営の基盤を林床に置く。短期間の栽培、あるいは空間そのものの利用だ。その上に繁る高木は、数年~数十年に一度収穫する程度で、その利益はボーナス扱いと考える。
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少しモデルを考えてみよう。
木のない土地(禿山、伐採跡地など)なら、焼畑のように山肌を不耕起栽培でソバやキビなどはどうだろう。樹木が育ってきたら、薄暗い林内で育つ作物に転換する。山菜やキノコ類、薬草が可能だろう。
私は、花卉の可能性も十分あると思う。日陰で育つ花木も多い。それを切り取って出荷するだげてなく、ベニドウダンなど山野草の花を鉢植えで栽培すれば、鉢ごと販売できる。
さらに花を販売するだけでなく、観光客を誘致して、相当な収入が見込めるのではないか。
たとえば、林床に花の美しい草木を育てる。春にカタクリ、ミツマタ、初夏にササユリ、アジサイ、秋にヒガンバナ……が咲くようにしたらどうだろう。
草本に限らず、林内に低木を育ててツマモノを得ることも考えてよい。そして観葉植物とか、園芸用花木、庭木も可能だ。
なお上木となるのはスギやヒノキなど針葉樹でなくてもよい。広葉樹を育てたら針広混交林になって、紅葉も楽しめるだろう。もちろん多様な木材も生産できる。
さらに牧草としてウシやヤギ、ヒツジの飼育を行う。ブタも可能だろう。
もちろん、野生鳥獣も資源だ。出没するイノシシやシカも収穫すればジビエとして出荷できるだろう。
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いずれも短期間(1~数年)で栽培・収穫が可能だから、損益計算をしやすい。しっかりした計画を立てれば投資を呼び込むこともできるだろう。
このように林床に草木を育てるためには、林内照度を確保しなければならないから、適時、間伐する。あくまで照度調整のための伐採だ。ただし、間伐材は販売してボーナスを得る。
栽培ばかりではなく、林床空間を貸し出す事業を行ってもよい。別荘や林内オフィスとか野外カフェ、アスレチック施設を設けて販売・賃貸する。一部はツリーハウスのように林床から少し上の空間を使うことも考えられる。森の中でお茶できる店があったら人気を呼ぶと思うのだが。
林床には多くの動植物が生息するから、生物多様性の維持にも一役買う。
そして林床には土壌も含まれる。林床の生産物は、ほとんどが土壌あっての産物だ。土壌を大切に扱ってこその林床栽培である。また林床植生をしっかりさせれば、土壌が守られるのだ。
つまり林床を大切にすることは、土壌を守ることであり、砂防と治山につながる。そして生物多様性という公益的機能も加えると、生態系サービスのほとんどを担うのである。加えて景観も形成する。となれば、大手を振って環境関係の助成金を要求できるだろう。
ここでは「土壌純収益説」を主張してもよいかもしれない。土壌の価値によって換金作物を生産し、同時に環境に寄与する。
木材生産なんぞ、林業の一部に過ぎない。木材にしたって、どうしても使い道を住宅など建築材料ばかりに固執するから行き詰まる。
林業は木材生産。木材は建材……。こうした固定観念から離れることで、林業にイノベーションを引き起こせるのである。
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