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- ID:
- 26340
- 年:
- 2012
- 月日:
- 1227
- 見出し:
- 天然木曽ヒノキ林を後世に残したい
- 新聞名:
- 読売新聞
- 元URL:
- http://www.yomiuri.co.jp/job/biz/columnscience/20121225-OYT8T01023.htm?from=navlk
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- 「木曽山中に樹齢300年ほどの天然ヒノキの森林が残っている」。
公益財団法人日本自然保護協会の横山隆一・常勤理事からそう教えられ、驚いた。
木曽のヒノキといえば、高級木材として需要が高く、大木はすでにほとんどが伐採されていると思っていたからだ。以前、林野庁と市民ボランティアが共同で、伝統的建造物の修復用材になる森林を作る「古寺の森」という事業を取材した際、20世紀の法隆寺の大修理や薬師寺伽藍再建では、国内の樹齢
数百年のヒノキは切り尽くされていたため、台湾のヒノキ材が使われたと聞かされていた。
横山さんによると、300年近くの樹齢のある天然ヒノキ林があるのは、長野県の王滝村などと岐阜県中津川市に点在する計約1万ヘクタールの国有林。国有林の木曽ヒノキは建築材料として人気が高く、林野庁の「収入源」だったが、高樹齢の天然ヒノキが残る地域は山奥で伐採が難しかったようだ。尾
瀬や白神山地などの保護活動の経験がある日本自然保護協会は、天然ヒノキ林をそのまま残したいとして、国有林を管理する林野庁に働きかけている。
一度伐採されてから再生した「半自然林」
木曽のヒノキ林では、江戸時代の大火の復旧や築城ブームにより、大伐採が行われた。その後、自然に落ちた種が発芽し、成長して森林が再生していった。こうして自然に更新された温帯針葉樹林では、ヒノキだけではなく、サワラ、コウヤマキ、ネズコ、アスナロといった約2000万年前から3000万年前に
日本列島に登場した樹種も再生し、古い時代の植生の面影をよく残している。
このようなヒノキを中心とする温帯針葉樹林は、日本では木曽地方の一部にしか残っていない。また、すでに300年近くの樹齢に達し、森林として成熟過程に入っている。このため、自然遺産としての価値が高い。さらに、温帯針葉樹林として保護されている地域は、屋久島の屋久杉などごくわずかであることな
どから、横山さんは「木曽の天然ヒノキ林は『生きた化石の森』。後世に残したい」と話す。
たしかに、木曽の天然ヒノキ林は一度伐採されてから再生した「半自然林」ではあるが、半自然林として世界的にみて異例ともいえる高齢な森林であり、江戸幕府による伐採制限などによって長く守られてきたという文化的な価値もある。温帯針葉樹林を構成する樹種の多くは、500~1000年の寿命を持つ
とされている。木曽の天然ヒノキ林はまだ300歳であり、これからもさらに成熟していくことになる。
国有林の公益的機能を見直しへ
国有林野事業について、政府は2013年4月から、営利を目的として運営するための特別会計を廃止し、一般会計で取り扱うことにしている。この改革の目的は、国有林の公益的機能を見直し、その機能を強化することにある。
日本自然保護協会や森林生態系の研究者らからも保護を求められている林野庁は、「木曽地方の温帯針葉樹林の現状を把握するため、分布域などの調査の進め方を検討している」と、保護に前向きの姿勢をみせる。木曽の天然ヒノキ林は生物多様性の保全価値や文化的価値などの高い公益性が
あるが、常に伐採の危機に直面している。保護をするのなら、できるだけ早い保護が必要だ。この保護を新しい国有林野事業のモデルケースとしてほしい。
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