v10.0
- ID:
- 26058
- 年:
- 2012
- 月日:
- 1203
- 見出し:
- 音茶楽Flat4-楓から妄想する、次期作への更なる期待
- 新聞名:
- BARKS
- 元URL:
- http://www.barks.jp/gakki/news/?id=1000085153
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- 音茶楽のFlat4-
粋が世に登場したのは、2012年5月に開催された<春のヘッドフォン祭2012>の会場だった。このサウンドとの出会いはそれはそれは衝撃的で、「なぜにこのようなまでにぶっ飛んだサウンド」なのか、その音を聴きながら、実機をあれこれいじり倒して思いの丈を編集部レビューとして書きなぐったのも半年前のこ
と(【BARKS編集部レビュー】音茶楽Flat4-粋(SUI)は脳科学の夢を見るか?:http://www.barks.jp/gakki/news/?id=1000079762)。
◆音茶楽Flat4-楓画像
▲<秋のヘッドホン祭2012>で発表され、2012年11月23日に発売開始となった音茶楽Flat4-楓。第1弾となるFlat4-粋と同様の機構ながら、素材とフィニッシュがブラッシュアップされて登場となった。71,400円(税込)。
▲第1弾Flat4-粋と比べ、今作Flat4-
楓の最大の特徴は、筐体が削り出しによる天然木製となったところ。ジャック部分等のデザイン変更も見受けられるが、上質な質感をもつケーブルなどはそのまま引き継がれている。タッチノイズも少なめだが、ケーブルを手前から耳に掛けるいわゆるSHURE掛けをすることで、完璧なタッチノイズの抑制が可能だ
。取っ手のような位相補正チューブが特徴的だが、SHURE掛け時にも邪魔にならず、全く問題なし。
その間にも、音茶楽は開発の手を緩めず更なるブラッシュアップと品質向上に情熱を注ぎ続けていた。機械振動の抑制、位相補正チューブによる外耳道閉管共振ピークのキャンセルなど、他に例を見ない画期的な基本設計はそのままに、素材を一新し最も大きな影響を与えると思しき筐体素材をアルミから
天然木材へ変更、プレートとヨークはニッケルメッキから銅メッキへと変わり、新たなサウンドを提示するFlat4-楓を完成させていた。
頑強な楓材をハウジング型に削り出すという無理難題に飛騨高山のオークヴィレッジが応え、サウンド、耐久性はもちろん、その美しい仕上がりには経年変化を伴う漆を使用することで、Flat4-楓はサウンドのみならずそのルックスさえも年月と共に自然なエージングが施されるプロダクトとなっていた。
Flat4-
楓には、目の詰まった上質な天然楓(かえで)が使用されている。輝くような杢の入った非常に硬質な材だが、実はイヤホンの筐体のような小さく薄い形状にミクロン単位の精度で削り出すのは、困難を極めるものだ。円柱形状のため毛羽立ちを起こさずに削り出すには、強度を保ち粘りのある材木を精度高く
削り出す必要があり、それを可能とする専用工具自体を新たに作成することから製作はスタートする。そうやって困難の末に削り出された楓製の筐体も、高温多湿な環境にさらされる拭き漆工程ではヒビや割れを生じてしまうわけで、極端に低い歩留まりが容易に想像できる。涙も枯れる製作工程だ。
しかし、そこに流れるのは、日本が育む国産木材の美しさに漆という日本伝統の匠が息づく、モノづくりへの美学だ。Flat4を設計した山岸氏の目には、Flat4-粋が進化する方向に「メイドインジャパン」へのこだわりが映っていたようで、開発から設計、制作に至るまで純日本製であることに誇りを持っていたFlat4-
粋は、Flat4-楓としてさらなる進化をみせることになった。筐体の材料も制作も仕上げも、すべてのファクターが日本伝統の技に裏打ちされた国産プロダクトに集約されていた。経年変化を見せる漆のわびさびには、人が使い込んで変化していくオーディオの特性と歩みを共にするロマンティシズムとドラマがある。
そして、相変わらず音茶楽Flat4のサウンドは凄い。耳にはめた最初の第一音での「お、凄い音!」というインパクトもさることながら、そのまま耳に馴染んだ時に作り上げられる空間と淀みなきサウンドが特筆すべきもので、まるで音が耳元を離れ、自分の頭部を取り囲むような濃密な音場を形成しているかのよ
うに感じる。このサウンドステージがとにかく強烈で、コンパクトなオーディオルームを頭にすっぽりかぶっているかのような感覚にとらわれる。可搬オーディオルームをドラえもんに出してもらったら、きっとこんな感覚なんじゃなかろうか。ちょっと現実離れしたインパクトだ。
この空間は、いわゆるカナル型イヤホンが生み出せる空間の類ではない。とはいえ、ゼンハイザーHD800に代表されるような手に取るように広がる広大な音場ともまた違う。まさに、イヤホンでもヘッドホンでもない、どちらにも属さないまさに両者の中間に位置する、特異な表現力をまとっている。ヘッドホンと同等
とまでは言わないが、イヤホンの表現領域は完全に飛び越え、唯我独尊の音楽再生機器の位置づけだ。敵なしの独自の存在感を見せつけるのだ。
サウンドのバランスは、SONY MDR-EX1000やAKG
K3003と同様にバランスのとれた万能なフラットなものだと思うのだけど、これを「フラット」と表現するのはピンとこない。試聴ルームで超高額なオーディオセットを鳴らした時の、空気全部が音楽に変わる鳥肌モノのあの感じに似て、低域も中域も高域も、各帯域ともすべての帯域が鮮やかにエネルギッシュに立体
的に飛び出してくるので、いわばフラットとは正反対の「各帯域オラオラ主張型」と表現したほうがピンとくる。周波数帯域のべらぼうな広さは、へたなヘッドホンも真っ青で、私がイメージしてきたイヤホンの常識から完全に逸脱している。低域も高域も自分の聴力の限界を軽く上回っているので、自分が堪能でき
るサウンドキャンパスを余すところなく楽しませてくれるのもうれしい。全帯域にわたって余裕のヘッドルームを持っているというイメージだ。
▲右が新作Flat4-楓、右が第1弾のFlat4-粋。筐体が木製になったことで、中央部分が一回り太くなっている。
▲左がアルミにアルマイト加工されたFlat4-粋のキャビ部分。右の3つはFlat4-楓のキャビ部分で、削り出し状態、漆塗り後、そして右端は漆を塗った2~3ヵ月が経過し、経年変化で木目が出始めている状態。Flat4-楓は時間を重ねることで、サウンドもルックスもユーザーと共に歩みを見せる。
▲プレートとヨークにも違いがある。左のFlat4-粋用は純鉄にニッケルメッキ、右のFlat4-楓用は純鉄に銅メッキが施されている。
▲Flat4-楓の場合、アルミ製位相補正チューブも黒くなっている(右)が、こちらはアルミに漆塗りを施したもの。ここも経年変化で色味が変わってくることになる。
▲同梱物は、コンプライ フォームのイヤチップT-200 Lサイズ(Mサイズは本体に装着)にクロス、取扱説明書兼保証書。ボックスは楓&桐無垢材による高級感あふれたものだ。 さて、問題はFlat4-粋(33,000円)とFlat4-
楓(71,400円)とのサウンドの違いだが、私の耳では差異は非常に微細で、静かな環境でデリケートな音源で聴き比べた際に聞き取れるかどうかというレベルだ。
両者間にエージング時間の差異もあり、正当な評価が下せているかも分からないのだけれど、Flat4-
粋の方が若々しくメリハリがあるように聞こえる。言ってみればとげとげしい定常波すらも刺激的な魅力として耳に届けてくれるような楽しさがある。多少下品なまでもエネルギッシュに超高域までを瞬発力で弾き出すFlat4-粋の高域の表現力はたまらなく魅力的だ。
一方でFlat4-楓の方が明らかに低域の艶と深さが上質だ。個体差かもしれないしエイジング・コンディションの違いかもしれないが、低域から中低域にかけての艶が全く違い、Flat4-
楓の方が私には断然魅力的に聞こえる。逆に高域は定在波がとれてまろやかになったかのような感覚があり、デリケートで滑らかな上質さを感じさせてくれる。にもかかわらずどこまでも伸びる天井の高さが一切阻害されていないのは驚異的なのだけれども。例によってのGRADO比喩でお恥ずかしいが、Flat4-
粋とFlat4-楓のサウンドの差異は、ちょうどGRADOのSR325isとRS1iの差異によく似ている気がする。
Flat4は、出力音圧レベルが104dBSPL/mW、インピーダンスが18Ωというスペックだが、意外に音量は取りにくい。もちろん通常のポータブルプレイヤーで全く問題なく使用できる範疇だが、アンプ使用時もギャングエラーに悩まされることもなく、ある程度アンプをドライブできるという良い音が鳴るための良い条件
がそろう。
Flat4-粋とFlat4-
楓というモデルが誕生し、Flat4の持つ驚異のサウンドが世に出回りつつあるが、私が次に期待したいのは、イヤホン形状を持っているからこその、完璧な遮音性をもったポータブル最強のFlat4の誕生だろうか。外耳道開管共振値の疑似発生チューニング機構や閉管共振抑制の微調整機能など、品質向上の
理論的テーマは山積だとは思うが、これらは完全なる遮音の世界で再現されてこそ、本当の意味で画期的なこととなる。完璧な遮音世界を持つのでそいつの名は「Flat4-遮」って感じ?Flat4-遮が誕生すれば、世の中のイヤホンは全滅しますよ。
●音茶楽Flat4-楓(KAEDE)
・オープン価格(音茶楽Sound Customize販売価格:税込71400円)
・エレメント:010e002 Φ10mmダイナミック型×2(片ch当たり)
・音響方式:ツイン・イコライズド・エレメント方式
・出力音圧レベル:104dBSPL/mW
・周波数特性:3.5~35kHz
・最大入力:400mW
・インピーダンス:18Ω
・質量:約17g
・プラグ:Φ3.5mm 金メッキステレオミニプラグ
・コード長:1.2m(Y型)
・付属品:コンプライ フォーム イヤチップT-200 Lサイズ(Mサイズは本体に装着)
・収納箱(楓&桐無垢材)、クロス、取扱説明書兼保証書
その他の特徴・Flat4構造とコンプライフォームイヤーチップ採用により不快なタッチノイズを軽減
・タンジェンシャルレス振動板を採用、歪み感の少ないクリーンな中高音域を実現
・最大エネルギー積400 kJ/m3(50MGOe)の強力なネオジウムマグネットを採用、プレートとヨークへの電磁純鉄採用と合わせて強力な磁気回路を構成
・プレートとヨークに銅メッキを施す事で磁気歪みを低減
・表示部に印刷を不使用、レーザーマーキング等で消えない表示を実現
・ボイスコイルに特殊CCAW線採用、400mWの高耐入力を実現
・筐体に液晶ポリマー採用 美しい響きと余韻を実現
※楓材キャビネットは漆塗りの為、経時変化で透けて行き徐々に木目が見えてきます。
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