v10.0
- ID:
- 25186
- 年:
- 2012
- 月日:
- 0905
- 見出し:
- スギに花粉を作らなくさせる遺伝子の位置を特定
- 新聞名:
- 健康美容EXPニュース
- 元URL:
- http://news.e-expo.net/release/2012/09/post-104.html
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- 森林総合研究所は、スギに花粉を作らなくさせる遺伝子(雄性不稔遺伝子)が遺伝子地図(連鎖地図)のどこにあるのかを明らかにしました。最初に、当所がこれまでに収集してきたスギの遺伝子情報を利用して、2,431遺伝子からなるスギの遺伝子地図を作製しました。
これは針葉樹の遺伝子地図としては、世界で最も多くの遺伝子からなるものです。この地図情報を用いて、雄性不稔遺伝子が第9番目の連鎖群に存在することと、その地図上の位置を明らかにしました。この遺伝子の近くのDNAマーカーを用いることで、解析に使用した交配家系では96%の精度で無花粉スギ
を正しく識別できました。これにより、花を咲かせるまでわからなかった無花粉スギの実生段階での識別の道が拓かれました。
◎背景
スギ花粉症は昭和39年、日光市で初めて報告されました。その後、花粉症の発症率は全国的に増加し、現在では国民の4人に1人が花粉症と言われ、我が国の大きな社会問題の一つになっています。林業分野におけるスギ花粉症対策の基本は、花粉発生源を減少させることです。そのため、森林総合研
究所は、都市部に影響を及ぼす花粉発生源の特定、薬剤や森林管理による花粉抑制技術の開発、花粉の少ないスギ精英樹の選抜、無花粉スギを利用した新品種の作出等に取り組んできました。
無花粉スギは1993年に初めて富山県で発見されてから、日本各地で選抜され、その利用に向けた研究が進められています。無花粉スギの実生苗を生産する際、自家交配や血縁個体間の交配で生産される種子では、発芽率が低くなったり、成長が著しく悪くなったりします。そのため、それぞれの地域に適し
た優良な生育や形質を持つ無花粉スギの実生苗を効率的に生産するためには、無花粉化を可能とする遺伝子組換えによる花粉発生制御技術を開発することが必要です。このため、森林総合研究所では、遺伝子組換え樹木の開発に必要な遺伝子の単離やその発現機構の解明、スギの花芽形成や雄
花の発達に関連する遺伝子の発現を制御する技術など、多方面から研究・開発を進めてきました。
◎成果
スギに花粉を作らなくさせる遺伝子、すなわち無花粉スギの原因となる遺伝子(雄性不稔遺伝子)はms1と名付けられており、その存在は知られていましたが、遺伝子地図(連鎖地図)のどこにあるのかは今まで明らかされていませんでした。今回、その位置を明らかにし、交配した家系の中で無花粉スギを識別す
る方法を開発しました。それを可能にしたのは、これまで大規模に収集してきたスギの発現遺伝子の情報を利用して作られた、2,431遺伝子からなるスギの連鎖地図です。これは針葉樹の連鎖地図としては世界で最も多くの遺伝子から構成されるもので、非常に有用な情報を持っています。この地図情報から、
ms1が第9番目の連鎖群に存在することを明らかにし、さらに無花粉スギの家系を用いてms1を含む領域の連鎖地図を作製しました。これによって、雄性不稔遺伝子ms1のすぐ近くにあってその目印として使えるDNAマーカーを明らかにすることができました。このDNAマーカーを用いることにより、解析に使用した
交配家系では96%の精度で無花粉スギの識別に成功しました。
◎成果の活用
本研究により、目的とする雄性不稔遺伝子ms1の連鎖地図上の位置が明らかになりました。また、無花粉スギをより確実に識別できるDNAマーカーを開発しました。すなわち、今回開発したDNAマーカーを使えば、わざわざ人工交配により子供を確認しなくても、雄性不稔遺伝子ms1を持つ個体を効率良く選
抜することが期待できます。今後は、雄性不稔遺伝子の実体を解明し、花粉をつくらない遺伝子組換えスギの開発に利用し、それぞれの地域に適した無花粉スギを開発したいと考えています。また、作製した連鎖地図情報から、様々な有用形質と連鎖するDNAマーカーの開発に取り組む予定です。
なお、本研究は、林野庁「遺伝子組換えによる花粉発生制御技術等の開発事業」及び生物系特定産業技術研究支援センターイノベーション創出基礎的研究推進事業「スギ優良個体の選抜のためのゲノムワイドアソシエーション研究」により実施したものです。
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