v10.0
- ID:
- 24527
- 年:
- 2012
- 月日:
- 0613
- 見出し:
- 坂本龍一氏がアフリカから学んだこと
- 新聞名:
- 日経ビジネス
- 元URL:
- http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120611/233180/?bv_ru
- 写真・動画など:
- なし
- 記事内容
- 森林保全団体の代表も務める坂本龍一氏。日本や東南アジア、アフリカなど伝統の暮らしの中に持続可能な生活のヒントがあるという。その技術や知恵を現代に取り入れる重要性を語る。
(聞き手は、藤田香・日経BP環境経営フォーラム生物多様性プロデューサー)
森林保全団体「more trees(モア・トゥリーズ)」の代表も務めていますね。More
treesでは間伐材やニ酸化炭素吸収量など森から得られる恵みを都会の人々に提供し、その対価を森の整備に充てるという循環型の森作りをしています。リオ+20では、こうした生態系から得られる便益を保全・活用しつつ経済成長と両立させる「グリーンエコノミー」が話題になります。坂本さんが考えるグリ
ーンエコノミーとはどんな暮らしですか。
坂本氏が代表を務める森林保全団体「more trees(モア・トゥリーズ)」が育てる森で
坂本:more treesの活動は5年目に入り、国内10カ所、海外1カ所(フィリピン)で森作りを進めています。そこで気づかされたのは、自然を守ることで自分たちの生活も守れるということです。
日本人は長いこと、森に手を入れたり、水田を作ることを続けてきました。水を引いて水田を作ることで、田んぼのない時よりも、自然が豊かになったり、生物多様性が増えた場所もあります。自然に手を加えながら、自然にも人間にも資するものを作ってきたわけです。持続可能な形で手を加えて自然をデザイ
ンしてきたのです。その結果、日本列島全体が豊かになってきた歴史があります。
20世紀に入ってモノカルチャーになり、伝統はかなり壊れてしまいました。そうした伝統をもう一度見直さなければならない、と僕は感じています。
地球全体では、持続可能な暮らしが大きな問題になっています。そんな時、足元の伝統、50年前までやってきた暮らしが重要なヒントになるんじゃないかと思っています。
あえて道を整備しない。そこに知見がある
国内外に、ヒントになるような取り組みはありますか。
坂本:10年前にアフリカが好きで何度か通っていました。野生動物の宝庫であるケニアのマサイマラ国立公園のロッジに行く途中、すごいガタガタ道でした。雨が降れば道が川のようになってしまうような場所です。
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>>次ページ化石燃料に依存した暮らしは怖い
「なぜ道を整備しないのか」と土地の人に聞いたところ、こんな答えが返ってきました。「自分たちは自然があって動物がいて、それを見てもらって収入を得ている。自然が壊れて動物がいなくなれば自分たちの経済活動も終わってしまう。道が整備された途端、自然は壊れるから」と。はっきりした目的意識を持っ
て、道を整備せずにいる。そこに知見があると感じました。
坂本龍一氏
音楽家、作曲家。1952年東京都生まれ。1987年に映画「ラストエンペラー」で米アカデミー賞オリジナル作曲賞を受賞。ニューヨーク在住
(写真:堀勝志古)
対照的な出来事もあります。アマゾンの熱帯雨林に行った時のことです。飛行機で移動する間、地平線まで続く熱帯雨林を飽きずに見ていました。急に直線的な道が1本現れました。人間が作った道です。自然のデザインに直線はないんです。自然の線はぐるぐる巻いていたり、曲がっていたり。直線の道が
できるとトラックが入るようになり、途端に開発が始まり、自然が壊れていきます。
アマゾンの熱帯雨林は一度伐採するとなかなか再生しにくく、砂漠化しやすいと言われています。伐採したら次へ移動する、資源を使い切って終わり、というやり方は、持続可能な経済活動につながりません。
日本的な伝統では、定規のような直線を引かないで、おじいちゃん、おばあちゃんたちが苦労して棚田の棚を作ってきました。周辺の石を1つずつ組んでね。城の石垣もそうですが、複雑な形の石を組み合わせて作っています。同じ規格のものを直線的に作るのではなく、自然の地形や自然のものを利用す
る。こうした思考は大きなヒントになると思います。
化石燃料に依存した暮らしは怖い
しかし、快適さを捨てて昔の伝統的な暮らしに戻ることは容易にはできません。現代の環境技術とどのように組み合わせていけばよいですか。
坂本:20年前に比べて、あらゆる電気製品が省エネ型になりました。様々なセクターがエネルギー消費量を半分にすれば、日本全体のエネルギーを削減でき、廃棄物も減らせます。日本が化石燃料の輸入のために支払っている金額は年間20兆円を超えると聞いています。
これが単純に半分になれば、残り10兆円は国内で使えるわけです。食とエネルギーの自給率を上げることを促進したり、自然エネルギーを普及するのに使えます。そのためには、家庭も産業界も省エネという小さな努力を積み重ねなければなりません。省エネ製品は随分出ていますが、産業界の事業活動
の中での省エネにもっと期待したいですね。エネルギーも食も、自給率が低ければ安全保障的に危険です。
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江戸時代、日本の人口は3000万人で、食は完全自給自足、しかも100%有機農業でした。同じ国土で持続可能な社会だったわけです。もし今、海外からのエネルギー供給が止まったら…。有機農法的な技術はそれほど受け継がれていないので3000万人を食べさせることすら厳しいでしょう。化石燃料に依存
した暮らしには怖さがあります。
エネルギーや食を自給する町作りを
東日本大震災では国産材を使った木造仮設住宅を建設する支援活動をしました。震災後の町作りをどう考えていますか。
坂本:都市に暮らす多くの日本人は、日々自然を感じたり見ることなく生活していたと思います。そこへ突然自然があのように姿を現したことに脅威と畏れを感じました。畏れ、おののきを僕は忘れたくない。忘れない努力をすべきだと思います。
畏れ、おののきを基に東日本を作り直す時、元に戻すのではなく、自然の力を意識したロバストな(しなやかに強い)町を築いていかなければならない。地震や津波、温暖化による海面上昇にも対応できる町作りをする必要があります。
オランダは海面上昇の脅威を感じていて、建築家が水で浮く家を設計しています。こうした家は東南アジアにもあります。その技術や知恵を先進国も取り入れることが大事です。自然と対決するのではなく、共生する暮らし、災害にしなやかに対処できる文明作りです。
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